株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では前回に引き続き、VerraのVCS StandardのメジャーアップデートとなるVersion 5のドラフトの内容をご紹介します。
今回注目するのは、1) セーフガードとステークホルダーエンゲージメント要件の強化、および2) 透明性とデータについてです。特に2)の一部の「Digital Measurement, Reporting, & Verification (DMRV)によるクレジット発行」は、プロジェクト開発者と投資家の両者に大きな影響がある提案のように思います。カーボンクレジットは実績に基づく発行 (result-based payment)が基本です。そのため現状では、クレジットの発行を申請する度に、実地調査を行い (Measurement)、結果をモニタリングレポートとしてまとめ (Reporting)、それを第三者機関に別途検証してもらう(Verification)手続きが必要です。この一連のプロセスには時間とコストがかかるため、多くのプロジェクトでは3-5年に一度クレジットを発行するくらいの頻度となっています。これをリモートセンシングなどの利用により実地調査の負荷を下げて、より高頻度 (例えば月次)かつ低コストでクレジットの発行を行う、というのがDMRVのアイディアです。仮にこれが実現すると、プロジェクト開発者にとっては運営上のファイナンスの障壁が下がりますし、投資家にとっても回収期間が短くなるなどのメリットがありそうです。
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VCS Standardのメジャーアップデートに対する初回パブリックコメント(続き) (Verra)
(出所: Initial Consultation on Version 5 of the VCS Program, 2024年10月23日アクセス, 以下断りのない限り、画像の出所はリンク先のドキュメント)
以下は今回のドラフトで検討されている変更点の概要です。メジャーアップデートということもあり、項目は多岐に渡ります。本ドラフトに関する基本的な情報は前回のニュースレターもご覧ください。
冒頭で述べた通り、今回のニュースレターでは「セーフガードとステークホルダーエンゲージメント (Safeguards and stakeholder engagement)」、および「透明性とデータ (Transparency & Data)」のセクションを中心に、提案されている内容を紹介します。
「セーフガードとステークホルダーエンゲージメント」に関する提案内容の紹介
セーフガードとステークホルダーエンゲージメントのセクションで検討されているのは以下の4つの項目です。
2.1 ステークホルダー・エンゲージメントの強化
2.2 社会・環境的セーフガードの強化
2.3 SDGゴールへの貢献の明記
2.4 小規模プロジェクトの参加促進
以下では、比較的変更点が大きい、(2.2) 社会・環境的セーフガードの強化と(2.4) 小規模プロジェクトの参加促進について詳細をご紹介します。
(2.2) 社会・環境的セーフガードの強化
Verraは2023年から2024年にかけて、主にCCPやCORSIAへの対応を念頭に、セーフガード基準の強化を行ってきました。しかしまだ改善の余地があるということで、今回のアップデートでもセーフガードに関するいくつかの追加的な要件を導入するとしています。大きく分けて、社会的なセーフガードと環境的なセーフガードに分かれます。
社会的セーフガード
以下は社会的なセーフガードに関する改訂項目の要約です。利益の配分や、人権と公平性の尊重、財産権は既存のVCS Standard Version 4.7でも記述がありますが、より要件が明確化される形です。一方、言語、公正な移行、武装要員については新しく導入された項目となります。
言語
一般的に話されている現地言語でプロジェクト文書の要約の提出を義務付ける。
また、要約に含めるべきプロジェクトの説明やモニタリングレポートのセクションを指定する。
利益の分配 (Benefit Sharing)
利益の分配をクレジットの販売収益による金銭または現物の配分と定義する。
プロジェクトにより財産権や慣習的権利に影響を受ける全てのステークホルダーを包括した利益の配分メカニズムを求める。
人権と公平性の尊重
リスク評価を行う上で具体的に用いるべき情報源や証拠の種類を定める。
財産権
財産の移転やその他の権利の喪失が発生していないことを示すために必要な証拠の種類を定める。
公正な移行
雇用喪失の防止と公正な労働代替の確保を求める (従業員の移行計画、外部依存者への補償、スキル向上の義務付けなど)。
武装要員
武装要員(保護地域における武装レンジャーなど)の運用に関する規定を定める。
具体的には、交戦規則、適切な訓練、武力の正当な使用と鎮静化対応、武力の誤用時の報告規定、身元調査、身体的・心理的安定性などの基準、武器の使用および配備の制限に関するポリシーの策定など。