株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、Verraの草原管理の方法論に関するアップデートをご紹介します。
既存の草原管理の方法論として、VM0026とVM0032がありましたが、VM0026は廃止し、VM0032を改訂されることが発表されました。草原管理はALMの一部として既存のALM方法論のVM0042でもカバーされている活動内容ですが、VM0042との関連についても言及されています。草地管理の案件は、あまり日本ではメジャーではないですが、VM0026、VM0032を用いた案件で創出されたクレジットはこれまでNetflix、Meta、Salesforceといった大手IT企業やファッションコングロマリットのKeringなど名だたるグローバル企業が償却しています。日本企業からも武田薬品工業が償却しています。最近のこれらの案件の人気は、(まだ明確には吸収系というラベルは付いてはいませんが)回避削減系ではなく吸収系クレジットという位置付けで見做せることが一つの要因になっていると考えられます。
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Verraの草原管理の方法論に関するアップデート
(link)
Verraは持続可能な草原管理に関するプロジェクトの方法論の改訂の方針を発表しました。
草原管理プロジェクトは、改善された農地管理(ALM: Improved Agricultural Land Management)のプロジェクトの一種です。ALMの最新の方法論のVM0042, v2.0は幅広い農地管理活動を対象としており、草原管理もカバーしています。一般的にALMプロジェクトでは Soil Organic Carbon (SOC、土壌有機炭素)のストック量の変化がGHG削減の最も大きなソースになりますが、SOCの測定には緻密に設計されたサンプリング調査や、土壌の炭素循環に関する複雑な数理モデルを用いた推定を行う必要があります。これに関連して、特に草原については以下の課題があるとVerraは指摘しています:
生物地球化学モデルを校正・検証するための観測データの利用可能性が限られている
草原の異質性 (牧草地、低木/灌木、サバンナ、etc)や規模が考慮されていない
これらの課題を考慮するため、独立した草原管理の方法論を整備するようです。既存の草原管理に関する方法論としてはVM0026 Methodology for Sustainable Grassland Management (SGM), v1.1と、VM0032 Methodology for the Adoption of Sustainable Grasslands through Adjustment of Fire and Grazing, v1.0がありますが、今回の発表では、VM0026は廃止し、VM0032を改訂するとしています。
現時点 (2024年5月)ではVM0032の具体的な改訂内容に関する情報がほとんどオープンになっておらず、アップデート後のVM0032とVM0042をどう使い分けるのかはまだ明確でないように見えます。今回のVM0032の改訂点としては、1)モデルの使用に関するガイダンスの拡充、2)動的ベースラインの導入などが挙げられていますが、VM0042, v2.0ではサブモジュールのVMD0053でモデルの一般的な運用方法ついてかなりテクニカルな部分まで詳述されていますし、動的ベースライン的な考え方もすでに導入されています。これらの点については情報が出て来次第またアップデートできればと思います。 (なお、現在VM0042に対してもメジャーアップデートが検討されています。こちらは記事を改めて紹介できればと思います。)
以下では、草原管理プロジェクト/方法論の紹介という位置づけで、今回改訂の対象となっているVM0026とVM0032を用いたプロジェクトの発行/償却実績と、方法論の改訂の論点をもう少し詳しく紹介します。
発行/償却実績(2024年4月30日まで)
各方法論によるクレジットが発行(Issued)・償却(Retired)された量の推移およびそれらに対応する国、プロジェクト、企業の内訳を示します。また、償却量の多い企業に着目し、他にどのような案件に対して償却実績があるかを深掘りします。
VM0026の発行/償却実績
国別に見ると、方法論VM0026で登録されたクレジットの発行・償却はどちらもほとんど中国で実施されたプロジェクトになっています。
償却量の多い企業は、Takeda、Goodman、Boston Consulting Group、Nespressoなど幅広い産業の企業が含まれています。特に、Takedaは2024年に多くのクレジットを償却をしています。
以下は2024年にTakedaが償却したプロジェクトの分類になります。2024年に償却したプロジェクトのうちの約16%がVM0026に該当しています。また、Nature Restoration系のプロジェクト(ARR、SGM)に対して償却していることがわかります。