株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。今回はVerraのVCSのCORSIA Phase 1での使用承認に向けた動きについてご紹介します。
本題に入る前にお知らせです。
パリ2024オリンピックは、これまでで最も環境に優しい大会とも言われていますが、グリーンクレーム指令なども出てきているヨーロッパで開催されていることもあり、カーボンクレジットの取り扱い、それによる環境主張という観点でも学びの多い大会です。以下の通りセミナーを実施しますので、ぜひご参加ください。
タイトル: パリ2024オリンピックの組織委員会/スポンサー企業に学ぶ、カーボンクレジットを活用した環境主張のあり方
日時: 2024年 8月 9日(金)13:30-14:30(※アーカイブ配信あり)
場所: オンライン
ここから本題です。
今年の3月に行われたICAO(国際民間航空機関)の委員会にて、CORSIAフェーズ1の適格クレジットに関し、VCSを含むいくつかの主要ボランタリーカーボンクレジットのスタンダードの承認が再度見送られました。承認への一番の障壁はクレジットの二重計上への対応が不十分であることのようです。3月にICAOの報告レポートが公開されたあと、4月末にVerraは早くもそれらの指摘への対応方針を文書で発表しています。
ICAOの決定がどうなるかはまだ予測が難しい状況ですが、今回のニュースレターでは、Verraが公開した文書の中でも特にプロジェクトの方法論レベル(REDD+、IFM、ARR)での対応について、その概要を紹介したいと思います。
また、これを踏まえてCORSIA適格クレジットの供給がどうなるのかについての分析も紹介します。現状CORSIAフェーズ1での適格クレジットはACRとART-TREESのみですが、ACRについては97%以上が米国案件であり、相当調整のハードルがかなり高いと想定されます。
まだ最終承認を得られていないVCS/Gold Standardについては、「方法論」と「相当調整」の2点が供給ポテンシャルを見極める上で重要になります。どちらもまだ確定的なことは言えませんが、見通しを考える上で、以下のグラフが重要です(VCS及びGSの合計について、供給見込みが上位国のみを表示しています)。ここではIC-VCMのCCP(Core Carbon Principle)の審査状況を踏まえて、CORSIA適格になる可能性が相応に高いと想定される方法論を用いた既存パイプライン案件からの年間創出量見込みをもとにしています。詳細な説明は下部にて実施します。
本題の方法論レベルでの対応について、詳細は以下に記載していますが、J-REDD+(管轄区レベルのREDD+)の導入がいくつかの国/準国で進む中、プロジェクトレベルではなく、系全体としてのリーケージの扱いなどもより厳格になってきました。J-REDD+のスタンダードであるTREESにおいては、森林減少がベースラインよりも止められていない場合(=排出削減が達成されていない場合)にはARRの活動の成果は計上しないという方針をとっています。これは、一方でARR(植林・再植林)を進めながら、一方で伐採強度を高めるような自作自演的な活動を全体として認めないという意味もあるようです。このような考え方をCORSIAのような影響力のある枠組みに持ち込むことは、十全性がより高まることが期待される一方で、プロジェクト単位で植林活動などを実施しているプロジェクト開発者からすると、自分たちがコントロールできない要素でもあるため、予見性が低下することにも繋がります。
CORSIA適格について、Verra、Gold Standard、CARは2024年9月に再審査を予定していますので、また更新があり次第こちらで紹介します。
お問い合わせはこちらまでお願いたします。
VCSのCORSIA認証に向けた動き
(出所: CORSIA Eligible Emissions Unit Programme Change Notification Form, 2024/04/30)
今年の3月に行われたInternational Civil Aviation Organization (ICAO)のTechnical Advisory Body (TAB)の委員会にて、CORSIAのPhase 1 (2024-2026)で使用可能なボランタリークレジットの拡充が決定されることが期待されていましたが、結局、VerraのVerified Carbon Standard (VCS)や、Climate Action Reserve (CAR)、Gold Standardなどを含む主要レジストリーの承認は見送られました。引き続き、CORSIA適格のレジストリーはAmerican Carbon Registry (ACR)とART-TREESのみという状況が続いています。
CORSIA適格となるための条件はこちらのCORSIA Emissions Unit Eligibility Criteriaというドキュメントに記載されていますが、特に重要なのは以下の点です:
ベースラインの信頼性・保守性 (Criterion 2)
永続性の担保 (Criterion 5)
リーケージの緩和・考慮 (Criterion 6)
二重計上の回避 (Criterion 7)
ここで二重計上は以下をまとめて指します:
二重申告(Double Claiming):クレジットをCORSIAでのオフセットに使用したにもかかわらず、そのクレジットの創出国における排出削減貢献量としても再度カウントすること (つまり、相当調整がなされていない状態)
二重発行 (Double Issuance):1単位の排出削減・除去効果に2単位以上のクレジットが発行されること
二重使用 (Double Use):1単位のクレジットを2回以上使用すること
今回承認が見送られたのは、二重計上 (特に二重申告)への対応が不十分というのが一番の理由のようです (参考: TABによる評価レポート)。