株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(海外の主要規制の動向編)です。
本ニュースレターでは、最近、世界銀行グループから発表された、炭素と生物多様性に関する以下2つの融資スキームを紹介します。
国際復興開発銀行(IBRD)が発行した炭素除去ユニットに紐づいた成果連動型債券
IFCによるブラジル最大規模の投資銀行BTGパクチュアルが運営する森林投資経営組織TIG へのストラクチャード・ローン
その他、今月取り上げるべきトピックとしては、7/30にSBTiが発表した、Scope3のディスカッションペーパー、及び、カーボンクレジットを含む環境属性証書(EAC)の有効性調査結果が挙げられます(link)。
これらについては、先日当社にてウェビナーを開催しましたので、内容の解説はそちらにて代えさせていただきます。こちらからアーカイブの配信登録も受け付けておりますので、興味のある方はご登録ください。
今回紹介する世銀グループの案件2件は、いずれも大型の森林再生案件へのファイナンスであり、これらの森林再生案件から創出されるカーボンクレジットについて、マイクロソフトが長期オフテイク契約の締結を発表したことで、カーボンクレジット業界では大きな話題となっていました。
マイクロソフトによる長期オフテイク契約と、今回の世銀グループのような機関からの融資というのは、どちらもこの市場を成立させる上で重要な役割を担っていると考えます。一般にオフテイク契約は、プロジェクト開発者にとっては長期的な売上を担保するものでありつつも、(様々な例外はありますが)クレジットが発行されてはじめて支払いがされるケースが多く、土地の整備や植栽など、早期段階で膨大な資金を必要とする植林系の案件では、もっと早い時点でのファイナンスが必須です。
今回の世銀グループからの融資は、そのような案件初期のファイナンスニーズに応えるものであり、またこのような融資の判断を可能にしたのは、ある程度将来の売上を高い確率で担保する、マイクロソフトによる長期オフテイク契約があるからとも言えます。今回の世銀グループからの発表は、投資家にとっては、ある程度炭素市場固有のリスクを抑えつつも、自然資本への資金循環に寄与することのできる一つのオプションであると考えます。
公表タイミングとしては、マイクロソフトのオフテイク契約の発表の方が、今回の世銀グループからの発表よりも先ですが、一般に世銀グループのような機関で必要となる検討プロセスを考慮すると、この枠組みは概ね合意されていたものとみるのが妥当と考えます。
また、もう一つの論点としては、商業植林と原生樹種の森林再生のバランスです。2件目で紹介するTIGの件では、TIGの森林再生戦略全体として、50%は商業植林、50%は原生樹種の森林再生という配分が謳われていますが、これまでのところは、「TIGは37,000ヘクタールに投資し、すでに700万本以上の苗木を植え、約2,600ヘクタールの自然林の復元に着手している」とされており、商業植林側の活動がより進捗しているようです。経済リターンだけを取ると、商業植林が優先される構造にあり、「ファンドの投資家に対するコミットメント」と、「生物多様性や生態系の回復」について、どのようにバランスを取っていくのか、その中で、今回のIFCのローンにおける生態系に関する指標での成果連動型、という条件がどのように機能していくのか、今後本件の関係者にも話を聞いていく予定です。
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«VCM Updatesの構成»
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向
クレジット発行・償却分析
プロジェクトパイプライン分析
B. 海外の主要規制の動向 ← 本記事の対象
B. 海外の主要規制の動向
本稿では、炭素と生物多様性市場における世界銀行グループの最近の2つの融資スキームを紹介します。ここで紹介する2つの融資スキームは以下の通りです。
国際復興開発銀行(IBRD)が発行した炭素除去ユニットに紐づいた成果連動型債券
IFCによるブラジル最大規模の投資銀行BTGパクチュアルが運営する森林投資経営組織TIG へのストラクチャード・ローン
世界銀行は再び、炭素市場に対するコミットメントを示すとともに、生物多様性など他の生態系サービスに対する代替的な資金調達形態を促進する意欲を示しています。このような仕組みによって炭素市場への資金流入が増加し、特に金融投資家の活動が活性化することが期待されます。
(1) 国際復興開発銀行(IBRD)が発行した炭素除去ユニットに紐づいた成果連動型債券
(link)
8月13日、世界銀行グループの融資部門であるIBRDは、新しい大型のCRU(Carbon Removal Unit: 炭素除去ユニット)に連動する債券の募集に成功したと発表しました。これまでの炭素排出回避を対象としたものと異なり、この新しい仕組みにより、民間債券投資家は、炭素市場特有のリスクにさらされることなく、経済リターンをアマゾン地域の開発成果につなげることができ、この新しい仕組みは今後の雛形として、債券市場のさらなる革新への道を開くと期待されています。
上図は各種発表内容より、当社にて本件のスキームを整理したものです。この図の中の、1~5の数字に従ってそれぞれの中身を説明していきます。