株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(海外の主要規制の動向編)です。
本記事では、以下のトピックを扱います。
2024年の炭素クレジット取引の振り返り
なお、主に方法論の改訂を扱っている「Methodology Update」の今月号では、2024年の炭素クレジット市場の動向を定性的な観点で整理していますので、合わせてご参照下さい。
こちらでは主に、炭素クレジットの取引に関する定量的な情報を整理します。
はじめに
2024年は、「除去クレジット」への需要の移行(もしくは新たな需要セグメントの登場)が大きな特徴として挙げられ、これまでになく大規模な植林案件への投資が複数表明されました。当社で把握しているだけで、ARR(植林・再植林)案件へのオフテイク契約/投資の表明は50M tCO2を超えており、ARR案件での1年間の償却量(19M tCO2)を遥かに超えています。
除去クレジットの調達は、多くの企業が中長期的な目線で動いていると思いますが、その場合、中長期的な価格及び供給ポテンシャルを見極めていくことが重要です。足元では、除去クレジットといえば、数量ベースではほとんどがARR案件が占めており、技術系CDRとしては大半がバイオ炭案件です。しかし、DACCSやBECCS、ARRやバイオ炭以外にも、除去クレジットを創出する方法論は多く存在しており、「耐久性」、「生物多様性などの非炭素便益」、「MRVコスト」、「必要となる土地面積」などは、それぞれ大きく異なります。特に中長期的な目線で除去クレジットの調達を考える場合には、より広く様々な方法論をスコープに入れ、頑健なポートフォリオを組んでいく、ということを考え始める企業が今年は増えるのではないかと想像しています。
一方で、気候変動対策という観点では、足元でのREDD+へのファイナンスも重要です。この数年はREDD+にとっては厳しい状態が続いていました。昨年年末にかけて、VerraやARTでのJ-REDD及びプロジェクトレベルREDD+案件がCCP適格となるなど、ようやく良いニュースが出始めています。以下でも説明しますが、REDD+については様々な問題が指摘された中で、Verraでは数年がかりでの大規模な方法論改訂が進み、新たな方法論VM0048についてもようやく準備が整いつつあります。パリ協定6条4項メカニズムについて、COP29の直前で合意された、「方法論スタンダード」においても、6.4ERsにてREDD+が想定されている表現となっており、国連管轄での市場メカニズムにおいてREDD+も認められることが期待されます。
2024年の炭素クレジット取引の振り返り
ここでは、主に2024年1年間を振り返る形で、ボランタリー炭素クレジット市場の取引(発行・償却、投資/オフテイク契約、プロジェクトパイプライン)に関する定量的な情報を整理します。
まず、下図で示している通り、それぞれのデータの前後関係を意識する必要があります。単純化して表現すると、償却は過去、発行は現在、投資やオフテイク契約/プロジェクトパイプラインは将来発行されるクレジットに関する見通しを立てる上で役に立ちます。
以降、償却企業について、レジストリーに対して実名での登録は義務付けらておらず、正確性は保証できない旨ご了承ください。また、レジストリーへの反映には遅れがありますので、今後も取引量や案件の増減、ステータス変更の可能性があることにご留意ください。
レジストリーごとの発行量及び償却量
* 期間: 2015-2024年
* 対象レジストリー: VCS(Verra)、GS(Gold Standard)、CAR(Climate Action Reserve)、ACR(American Carbon Registry)、Puro (Puro.earth), Isometric
2024年1年間の償却量は163 M tCO2(2023年とほぼ同等水準)、発行量は265M tCO2でした(2025/1/7時点での各レジストリー登録データに基づく)。市場全体としては、依然として発行が償却を上回る状況が続いています。
レジストリーごとの内訳を見ると、Verraはこれまでの発行の大半を占めていたREDD+の発行量が、大規模な方法論改訂を進めている中で近年減少しています。一方で、Verra以外のレジストリーからの発行が増加しており、結果的にVerraの発行量ベースでのシェアはこの4年間で半減しました(80%(2021年)⇨40%(2024年))。
プロジェクトタイプごとの償却量
* 期間: 2015-2024年
* 対象レジストリー: VCS(Verra)、GS(Gold Standard)、CAR(Climate Action Reserve)、ACR(American Carbon Registry)、Puro (Puro.earth), Isometric
償却をプロジェクトタイプごとに見ると、依然としてエネルギー系とREDD+の数量が大半を占めていますが、自然再生案件(Nature Restoration)の数量がじわじわと上昇しており、2024年では19M tCO2程度となりました。
2024年の償却の振り返りにおいては、「除去クレジット」を求める新たな需要セグメントが出てきているということが挙げられます。これまでの石油・ガスや航空会社に対し、Microsoftなどのハイテク業界、DisneyやNetflixなどの消費財・サービス業界、EYやDeloitteなどのプロフェッショナルサービス業界、JP MorganやStandard Charteredなど金融業界の企業は積極的に高単価帯の除去クレジットの調達を加速しています。
本ニュースレターでも、これらのユースケースを多く取り扱ってきました。毎月の”VCM Update Section A”では複数の炭素クレジット償却企業のユースケースを紹介しています。