株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(海外の主要規制の動向編)です。お問い合わせはこちらまでお願いいたします。
本記事では、2025年4月から5月にかけて発表された主要な炭素関連政策の動向に関し、以下の項目に沿ってお伝えします。
パリ協定第6条2項(JCMを含む二国間協力)
パリ協定第6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
各国炭素関連政策
非国家主体のイニシアチブの動き
キーワード: 6条2項, JCM, 6条4項メカニズム, VCMI, ICVCM
はじめに
パリ協定6条2項に基づく二国間枠組みに関し、着実な進展が見られました。JCMに関しては、国内での体制整備が進んだほか、JCM国拡大に向けた動きが見られています。その他の二国間協力についても、シンガポールがペルーやチリといった中南米の国々と積極的に二国間枠組みの拡大を進めている他、ルワンダ、ウガンダ、ケニアといったアフリカ諸国も二国間協定の締結に向けた動きを活発化させています。JCMプロジェクトの組成を考える際は、JCMの競合とも言える他国との二国間協定の締結状況の動向を注視しておくことが重要です。
また、6条4項に基づくパリ協定クレジットメカニズムに関しては、2025年5月に、監督機関会合(SB16)が開催され、ベースライン設定基準とリーケージ対応基準が採択されました。こちらについては、ニュースレターの方法論編で詳しく扱いますので、そちらも併せてご参照ください。
各国の炭素関連政策としては、EU2040目標、フランス政府によるカーボンクレジット憲章の発表、イギリス政府におけるボランタリーカーボン市場とネイチャー市場の信頼性向上に関するパブリックコンサルテーション、ブラジル政府による森林カーボンワーキンググループの設置、インドネシアでの国際炭素基準との相互承認協定(MRA)締結に向けた動きを紹介します。フランスとイギリスのそれぞれの政府から、それぞれのカーボンクレジットの使用に関するポリシーが、VCMIやICVCMなどのボランタリーなイニシアチブの原則に則った形で出てきていることは注目に値します。
最後に、非国家主体のイニシアチブの動きとしてVCMIによるScope 3 Action Code of Practiceの発表にも触れます。これは、多くの企業にとって大変難しい課題となっているスコープ3に対して、質の高い炭素クレジットを補完的に活用するためのガイダンスを提供するものです。
パリ協定第6条2項(JCMを含む二国間協力)
パリ協定第6条2項に基づく二国間協力は、各国のNDC(国が決定する貢献)達成に向けた国際的な炭素クレジット取引の枠組みであり、2025年4月にはその具体化に向けた重要な進展が見られました。
JCM推進・活用会議第3回の開催及びJCMに対するパリ協定第6条に基づく協力的アプローチとしての包括承認(link)
2025年3月31日に開催されたJCM推進・活用会議第3回(4月4日発表)では、二国間クレジット制度(JCM)の枠組み自体がパリ協定第6条に基づく二国間の協力的アプローチとして包括的に承認されました 。これは、2025年4月1日施行の改正地球温暖化対策推進法によりJCMが法制化されたことに伴うもので、従来のJCM実施要綱は廃止されました。この包括承認により、個々のJCMプロジェクトから発行されるクレジット(国際的に移転される緩和成果、ITMOs)及び事業者の承認は、原則としてプロジェクト登録段階で行われ、ITMOs量の確定値はクレジット発行段階で承認される見込みです。
JCM指定実施機関(JCM Agency、JCMA)の発足(link)
2025年4月1日、地球温暖化対策推進法に基づき、JCMの指定実施機関として「JCM Agency(JCMA)」が発足し、公益財団法人地球環境センター(GEC)がその任にあたることとなりました。JCMAは、JCMプロジェクトの登録からクレジット発行までの制度運営、パートナー国との調整といった事務を一体的に担います。JCMAの設立は、JCMの運営体制を強化し、効率化・迅速化を図るものです。これまで複数の省庁や機関が関与していたJCM関連業務がJCMAに一元化されることで、事業者にとっては手続きの窓口が明確になり、申請から承認までのプロセスが簡素化・迅速化されることが期待されます。
インドと日本の間でのJCMパートナーシップの構築(link)
インドと日本は、JCMパートナーシップの締結に向けて最終調整を進めていると4月1日に報道がありました。両国は2023年3月にJCM構築に関する協力覚書(エイド・メモワール)に署名しており、JCMクレジットの一部を日本のNDC達成に活用することなどを相互に確認しています。経団連からも、日本企業のビジネスニーズの高い国・地域との間で早急にJCMを締結すべきとしてインドは1番目の国として例示されるなど、産業界からの期待も高く、今後の進展が注目されます。
シンガポールによる二国間協定の締結(ペルー、チリ、ルワンダ、パラグアイ)
シンガポールは、パリ協定第6条2項に基づく炭素クレジット協力に関する二国間協定の締結を積極的に進めており、2025年4月1日にはペルー(link)と、4月7日にはチリ(link)と、5月6日にはルワンダ(link)と、5月23日にはパラグアイ(link)と、それぞれ実施協定に署名しました。これでシンガポールは、これまで締結済みのPNG、ガーナ、ブータンと合わせて、合計7カ国と実施協定を締結したことになります。なお、ベトナムとの間でも実施協定交渉が実質的に妥結済みであるとも報じられています(link)。
ウガンダとケニアの二国間協定の締結に向けた動き
ウガンダはスイス、シンガポール、UAEとの間で(link)、ケニアはスウェーデンとの間で(link)6条2項に基づく二国間協定の締結に向けて調整を進めていると報じられました。ウガンダでは、これまで二国間協定は締結されていませんが、ケニアはこれまで日本(JCM)、シンガポール(MOU)、スイスとの間で二国間協定を締結済みです。複数の二国間協定を持つケニアは、どの国との二国間協定下で案件を組成するかを選べる立場にあることから、ケニアでのJCM案件組成にあたってはこうした競争環境を意識する必要があります。
パリ協定第6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
6条4項メカニズムの監督機関会合SB16での主な決定事項(link)
2025年5月12日から16日にかけて、監督機関会合(SB16)が開催されました。同会合での主要な決定事項や重要事項を抜粋して紹介します。
信頼性確保のための基準の採択
SB16における最も注目すべき成果は、6.4メカニズムの信頼性と環境十全性を確保するための2つの主要な基準、すなわちベースライン設定基準とリーケージ対応基準の採択です。これらの基準は、発行される炭素クレジット(A6.4ERs)の質を保証し、パリ協定の野心的な目標達成に貢献するための核心的要素となります。これらの詳細は方法論ニュースレターで紹介します。
野心的なベースライン設定基準
ベースラインの設定は排出削減プロジェクトの信頼性確保のために特に重要となりますが、SB16では、このベースラインを設定するための詳細な基準(A6.4-SBM016-A12)が採択されました 。
排出リーケージへの対応基準
プロジェクト活動の実施が、意図せずに活動境界外での排出量増加や吸収量減少を引き起こす現象は「リーケージ」と呼ばれます。SB16では、このリーケージを特定し、回避・最小化し、残存する負のリーケージを算定・控除するための基準(A6.4-SBM016-A13)が合意されました。
その他の事項
クックストーブ活動の移行に関する決定
CDMから6.4メカニズムへの移行を目指すクックストーブ活動について、最新のデータとガイダンスに整合させるための決定が採択されました。
ホスト国参加の強化
プロジェクトの便益をホスト国と公平に共有する方法に関する協議プロセスの開始や、ホスト国の役割明確化を含むキャパシティビルディングへの新たな焦点が合意されました 。
各国炭素関連政策
EU2040目標(link)
欧州委員会は、EUの2040年気候目標に関する法案を2025年6月に提出する見込みです。