パリ協定6条2項の下でのボランタリー炭素プログラムの利用
2025年12月 Methodology Updates (1/2)
株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。今回は、パリ協定第6条2項(2国間での協力的アプローチ)の実装に向けてシンガポール政府、Verra、Gold Standardが共同で発表したArticle 6.2 Crediting Protocolについて解説します。これは、民間主導のクレジット市場(VCM)の知見と国家間のコンプライアンス市場を接続するためのプロトコルです。
本ニュースレターでは、このプロトコルの概要と具体的な手続きの流れ、そして日本の二国間クレジット制度(JCM)との違いについて、主にプロジェクト提案者の視点から詳しく掘り下げます。
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はじめに: なぜ6条2項で既存のプログラムを活用するのか?
先月に発表されたArticle 6.2 Crediting Protocol(以下、ACP)は、VerraやGold Standardといった独立したクレジット・プログラム(Independent Crediting Programs: ICP)が発行するクレジットを、パリ協定6条2項の下で適切に管理・追跡するための標準化された枠組みです。
ACPでは、各国の政府が独自の制度を一から作るのではなく、既存のICPを活用するメリットとして以下に言及しています。
確立された枠組み: 既存の検証済みの認証フレームワークを利用できる。
行政負担の軽減: 政府はプロジェクトの認証や審査プロセスをICPや第三者機関(VVB)に任せることができ、自国の事務負担を削減できる。
親和性と認知度: プロジェクト開発者や検証機関にとって馴染みがあり、かつCORSIAなどの国際スキームで既に認知されているため、市場需要が見込める。
ACPにおける主要なステークホルダーは、ホスト国(パリ協定締約国)、ICP、プロジェクト提案者の3者です。ACPの特徴は、これら3者が相当調整(Corresponding Adjustment)の実行に向けてどのように情報をやり取りするかに主眼が置かれている点で、それぞれの役割分担が明確に規定されています。
ホスト国
緩和成果を特定の用途(NDC達成やCORSIAなど)に使用することを承認します。
承認、初回移転(First Transfer)、使用などのイベントを追跡し、UNFCCCへ報告します。
ICP(Verra, Gold Standard等)
プロジェクトによる緩和成果を認証し、レジストリ上でクレジットを発行・管理します。
クレジットに6条承認済みであることを示すラベルを付与し、ホスト国と連携してデータ整合性を確保します。
プロジェクト提案者
ICPの要件に従ってプロジェクトを実施します。
ホスト国から取得した承認情報をICPに伝達する役割を担います。
プロジェクト提案者にとっては、ホスト国政府やレジストリとの間で相当調整のための承認に関する追加的なやり取りが発生しますが、プロジェクトの組成自体は基本的に従来のVCMのルールの下で行います。よって、日本のJCMのように、ホスト国ごとに承認された固有の方法論を使用(なければ新規作成)する必要がなく、既存のVCM方法論を広く適用できる点が大きな違いの一つです。今後、このアプローチの違いが両メカニズムの下でのプロジェクト組成にどう影響を与えるのか、注目に値します。この点については、JCMとシンガポールのアプローチの違いについて紹介した以下の記事もご覧ください。
具体的な手続き
ここからは、実際にプロジェクトが6条承認クレジットとして認められ (“ホスト国からの承認の取得“)、それが特定の用途で利用され (“クレジットの使用“)、相当調整が実施される(“レポートとトラッキング: 相当調整の実行“)までのプロセスを見ていきます。カッコ内は以下で対応するセクション名です。


