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パリ協定6条2項・6条4項定期アップデート/日本とシンガポールアプローチの比較など

2025年9月 VCM Updates Section B: 炭素関連政策動向ハイライト

Sep 24, 2025
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株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(海外の主要規制の動向編)です。お問い合わせはこちらまでお願いいたします。


本記事では、2025年8月から9月にかけて発表された主要な炭素関連政策の動向に関し、以下の項目に沿ってお伝えします。

毎月お届けしているパリ協定6条2項、6条4項に関する動向サマリに続いて、今月は6条2項に関するシンガポールと日本のアプローチの対比の考察、日本とインドとのJCMパートナーシップ締結に関してお伝えします。

  • パリ協定6条2項(二国間協力)

  • パリ協定6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)

  • パリ協定6条2項 シンガポールと日本(JCM)アプローチの対比と考察

  • インドJCM31カ国目の署名国へ

キーワード: 6条2項, JCM, インド, シンガポール, VCS, NDC


はじめに

S&P Global の記事で、シンガポールと日本が、6条2項の活用に向けて全く別の異なるアプローチを取ることが紹介されました。シンガポールが、従来のVCM方法論やVCMプロジェクトを6条2項の下で行う協力アプローチの対象とするのに対して、日本は対象的に、JCMという独自のシステムを開発する点を報道しています。

同記事は、日本とシンガポールを比較することでそれぞれの独自性を際立たせている点で興味深いです。本ニュースレターでは、JCMの元々の目的も振り返りながら、JCMの独自性と現在、そして、今後に向けて考察します。

本記事は、梅宮知佐が執筆しています(地球環境戦略研究機関(IGES)や国立環境研究所勤務後、2025年7月より当社に参画しています)。


パリ協定第6条2項(二国間協力)

パリ協定第6条2項に基づく二国間協力は、各国のNDC(国が決定する貢献)達成に向けた国際的な炭素クレジット取引の枠組みであり、直近1ヶ月に見られた進展は以下の通りです。

  • シンガポールとタイは、パリ協定第6条に基づく炭素クレジットプロジェクトで協力するための実施合意に署名しました。これはシンガポールにとってASEANパートナーとの初めての合意であり、全体で8件目となります (link)。

    • なお、以下で紹介するインドと同様に、タイも6条2項(および6条4項)の活動リストを閣議決定して公開しており(link)、(インドとは対照的に)森林・農業・再エネなど幅広い活動を対象として明記しています。

  • ヨルダンは、パリ協定第6条に基づく初の認可書(LoA)を発行しました(link)。

  • シンガポールの開発業者Climate Bridgeがルワンダと覚書(MoU)を締結し、両国政府間の第6条2項実施協定に基づく炭素プロジェクトの案件開発を目指しています(link)。

  • ブラジル政府は、ITMOsの発行方法に関する規制について、9月に公的な意見募集を開始する予定です。

  • スイスの開発業者EcoSecuritiesがルワンダの開発銀行と提携し、第6条に基づく国の初のパイロットプロジェクト2件を設計・実施しており、高い信頼性の炭素クレジット生成を目指しています(link)。

  • ルワンダでのクリーンウォータープロジェクト(GS13118)は、パリ協定第6条に基づく国際的な炭素クレジット取引に向けて、第6条の承認(LoA)を確保しました(link)。

上記について、以下のような解釈ができます。

JCMを含め、6条2項での炭素クレジットの供給は、相当調整がボトルネックとなっています。今まで、ルワンダからは600万tCO2eを超える量に対してパリ協定6条ラベルが付与されたクレジットが発行(=ルワンダ政府から相当調整に関するLoA)されてきていますが、そのような経緯もあり、ルワンダの案件に対して6条2項案件の投資が活発化しています。

タイは、JCMの案件も多く存在しますが、シンガポールとも6条2項の協力協定に署名され、今後プロジェクト開発者にとっては、シンガポールの6条2項と日本のJCMのどちらを目指すかという選択をすることになり、競争環境が厳しくなることを意味します。以下ご紹介する通り、シンガポールはGold StandardやVerraなど既存の方法論を活用するアプローチをとっている中で、JCMについても、方法論の策定から案件登録までをスムーズに進めていくことが今後より重要となります。

ブラジルは、ボランタリーの案件では最も多くのクレジットを発行してきた国の1つですが、パリ協定のもとで国外にクレジットを移転するかについては不確実性が高いと言われてきました。上記報道では、11月のCOP30に向けて、ITMOsクレジット取引についての公開協議が開始されるということで、まだまだ不確実性は高く、かつ時間もかかると想定されるものの、非常に高いクレジット発行ポテンシャルを持つ国で具体的な検討が進んでいるということは注目すべきです。

パリ協定第6条4項(パリ協定クレジットメカニズム:PACM)

6条4項関連では、先月紹介した内容と重複しますが、以下の内容が直近で報道されています。

  • 国連の公式機関は、パリ協定第6.4条メカニズムに基づく提案されたベースラインおよびモニタリング手法の提出のための新しい標準化されたフォームを導入しました。

  • 国連の第6.4条監視機関は、基本的なサービス(水や衛生など)が不足しているコミュニティの気候行動を促進するため、「抑圧された需要」に関する新しい基準を採択しました。これにより、これらのニーズに対処する気候プロジェクトがカーボンクレジットを獲得できるようになります。


パリ協定第6条2項 シンガポールと日本(JCM)アプローチの対比と考察

JCM本来の目的とは

2013年、モンゴルと初めてパートナシップを締結して以降、段階的に広がりを見せる日本のJCMは、本来、日本の低炭素技術のパートナー国への普及(輸出)を目的としています。技術を持った日本企業は、日本政府の設備補助も活用しながら、プロジェクトを実施しし、獲得した削減量を日本側の貢献分に応じてパートナー国側と分配しようとする仕組みです。

これが、日本の現行NDCの策定と共に、その目的が変化しているように思います。現行NDCには、JCMを活用し、「2030年度までの 累積で、1億トンCO₂ 程度、2040年度までの累積で、2億トンCO2程度」の削減量を確保し、日本のNDC達成に活用」と明記されています(link)。その後、政府によって、GX-ETSの下で企業が目標達成にJCMクレジットを活用出来ることが示されました1。JCMの目的が、政府による技術の輸出支援から、企業による削減量の確保に変化してきているという事です。

後者は、民間JCMという新しいコンセプト(link)として、JCMに関心のある企業間に比較的スムーズに受け入れられているように思います。その背景には、これまでの間に企業が、SBTiといった国際的フレームワークの下で自主目標を掲げ、行動してきたことが挙げられます。特に、グローバルマインドな企業は、企業自らが気候行動を進めることがビジネス上重要であるという認識の下、対応の準備が出来ていると感じます。これは、JCMが始まったばかりの頃は、ほとんど見られなかった状況と言えると思います。

民間JCM

上述の通り、JCMは、政府が補助金を使って企業を後押しする従来の形から、企業自らが、削減量確保のために参加する民間JCMに移行しつつあります。では、「従来のJCMは、企業が削減量確保、つまりJCMクレジットを調達しやすい環境となっているか?」を考えてみましょう。

JCM方法論の壁

企業が、自然系JCMプロジェクトの開発で苦労する障壁の一つとして、まず思い浮かぶのが、プロジェクト登録に必須のJCM方法論の開発です。JCMでは、プロジェクト実施者自らが、方法論を開発します。この際、企業は、方法論開発の技術的困難さというよりも、方法論の二国間合意に至るまでの道筋の不透明さに頭を悩ますことが多い印象です。政府間交渉のプロセスがどのように行われ、どの位時間を要するのか、現在どの程度まで交渉が進んでいるのか、全く進んでいないのか、公開されている情報からだけでは状況が把握しづらいのが実態です。

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