(論文紹介)Editorial: Forest carbon credits as a nature-based solution to climate change? (1/n)
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森林カーボンクレジットに関して2023年8月に発行されたエディトリアル(Editorial: Forest carbon credits as a nature-based solution to climate change?)の中から、2-3本ずつ紹介していくシリーズの1つ目です。ここでは9本程度の論文が取り上げられており、扱われているトピックも追加性・永続性・リーケージ等、幅広く取り上げられています。
最近は、以下の記事で取り上げたWestの論文(この時点では査読前)がScience誌に掲載され、それに対するVerraやEverland、格付機関からの意見もでてきていますが、論文の内容・アプローチ、その反応含め特に新たな議論は出てきていないので、紹介は割愛します。興味のある方は上記のリンクをご参照ください。なお、以下のGuardian記事に関するニュースレターは、今まで当社で発行したものの中で最も閲覧されたものとなっています。
今回の記事では、IFM(Improved Forest Management)に関する以下の3つの記事を取り上げて、それぞれの内容を紹介していきます。
(1) California’s forest carbon offsets buffer pool is severely undercapitalized
(2) Comprehensive review of carbon quantification by improved forest management offset protocols (以前の紹介記事の再掲)
(1) California’s forest carbon offsets buffer pool is severely undercapitalized
(link)
今年だけでも多くの森林火災が特に北米やヨーロッパなど北半球で起きています。この論文では、カリフォルニア州のキャップアンドトレードで用いられているカーボンクレジット規格について、バッファープールの観点で分析を進めています。
結論としては、森林火災のリスクを踏まえると現状のバッファープールはそのリスクを補填できるサイズになっていないというものです。
1) 背景: バッファープールの考え方
まず、バッファープールがどのような仕組みなのかを説明します。バッファープールの目的は、過去に発行されたクレジットの永続性を保証するためのセーフガードとしての機能です。たとえ一部の炭素資源が森林火災などの事象によって予期せず失われたとしても、各炭素クレジットが1トンのCO2排出削減または回避を実現できるようにするための保険のような位置付けと考えることができます。それぞれのプロジェクトでは、検証された全ての量が販売可能になるのではなく、正味の排出削減量または排出除去量から、ある考え方で計算されたバッファーを引かれた数量になります。
永続性を保証する上での期間については、先日IC-VCMが発表したカテゴリーレベルでのCCPでの要件では、REDD+, ALM, ARR, Blue Carbon等の自然由来のカーボンクレジットについて、40年のモニタリング・補償期間が定められました(一方で、次のアップデートでは100年のモニタリング・補償期間が検討されています)。
Verraでは、差し引かられるバッファーの量は、NPRT(Non-Permanence Risk Tool)という永続性評価ツールで計算され、以下のような観点を含みます。
Internal Risks:プロジェクト管理活動、財政的な実行可能性、炭素貯留を継続しない場合の機会費用、プロジェクトの残存期間など
External Risks:土地の保有権と所有権、事前の十分なインフォームド・コンセント、地域ガバナンスなど
Natural Risks:火災、病害虫、異常気象など
なお、最近Verraは永続性の評価ツールを更新しました。これについては9月のMethodology Updateで扱う予定ですが、ALM(農地関連のプロジェクト)特有の要件、SLR(海面上昇)に関するリスク、将来の気候変動に対するリスク、ポリティカルリスク等についての評価など、かなり多くの更新が加わっています。
最近もWRI(世界資源研究所)が、メリーランド大学の研究に基づき、森林火災に関するレポートを出しました。2021、2022年にそれぞれ930万、660万ヘクタールの森林が消失し、特にカナダやロシアなど北方林(Boreal forest)での森林火災が増加しています。
気候変動によって森林火災のリスクが上昇し、それがさらに気候変動を加速しているというフィードバックループが指摘されています。
以下で紹介する論文では、特に北米の森林火災が増加していることを背景に、現在のバッファープールが最近の森林火災の動向を踏まえた時に十分に永続性を担保できているのかという観点で分析をしています。