株式会社sustainacraftのニュースレターです。今回はMonthly Methodology Updatesとして、主に2023年12月に発表されたVCSの方法論に関するニュースを中心にお届けします。
お知らせ
改めての告知となります。今週火曜 12/26 13時よりSDG Impact Japan様と共同でウェビナーを開催いたします。まだ登録できますので、よろしければ是非こちらよりご参加ください!
Monthly Methodology Updates
今月は以下の内容を紹介します。
(1) REDD+の統合方法論 VM0048の正式版が公開 (Verra)
(2) パリ協定6条ラベルをVCSプロジェクトに初めて付与 (Verra)
(3) 新しい稲作メタン方法論の開発を開始 (Verra)
(4) そのほかIFMや非在来種単一樹種ARR案件に関するアップデート (Verra)
(1) REDD+の統合方法論 VM0048の正式版が公開 (Verra)
先月末、REDD+のAUD (Avoided Unplanned Deforestation: 計画外の森林減少・劣化)に関する複数の方法論を統合するConsolidated REDD methodologyの正式版がVM0048 Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation, v1.0として公開されました。
本件は既存のREDD+方法論に対する非常に影響の大きな改訂であり、本ニュースレターでも過去何度かに渡って関連する情報を紹介してきました。
上記と重複する部分もありますが、正式公開に際して再度ポイントを確認しておきましょう。以下の内容は主に、方法論の資料、VerraによるFAQ、およびTrove Researchによる記事に基づいています。
まず、VM0048において特に重要な変更点は以下の2点です:
ベースラインの計算はプロジェクト開発者ではなくVerraが行う
ベースラインの計算はまず管轄区レベルで行い、それを域内の森林減少リスクに応じて個別プロジェクトに割り振る
既存の方法論では、ベースラインの計算は個別のプロジェクト開発者により行われていましたが、恣意的なベースラインの設定に対して多くの批判がなされていました。また個別プロジェクトレベルでリーケージを考慮することの限界も指摘されていました。VM0048では上記の変更により、これらの批判を乗り越えることを目指しています。また、管轄区レベルでのベースラインを割り振ることで、個別プロジェクトのベースラインの総和と管轄区レベルでの計算値の整合性を保つことができるという点も重要です。
森林減少リスクの推定は、アクティビティデータ (特定の期間の森林減少データ)、および森林減少に関連する補助的なデータを用いて推定します。アクティビティデータの整備は順次進められており、こちらで状況を確認することができます。個別プロジェクトへの割り当て方法については、2024年の第1四半期を目処にアロケーションツールが公開される予定となっています。
なお、ベースラインの更新頻度はこれまでの10年から6年に短縮されています。より短いスパンで更新する方が正確な評価に近づく一方で、頻繁に変更されるとプロジェクト開発者が経済的に安定しなくなるため、そのバランスを取った設定となっています。
次に、VM0048の運用を理解する際に重要となるポイントを3つ紹介します。
ポイント1) 現時点での対象はAUDのみ。ただし将来的には対象範囲を広げる
表題の通り、現時点ではVM0048の適用対象のプロジェクトタイプはAUDのみです。複数のタイプを含むプロジェクトの場合は、AUDに関するパートのみが新方法論の対象となります。しかし、今後徐々に対象範囲は広がっていきそうです。
具体的には、まず2024年を目処にAvoided Planned Deforestation (APD)に関するモジュールを発表するとしています。加えて、湿地におけるプロジェクトは、VM0033の更新や、開発中の熱帯泥炭地の方法論でカバーする想定で、これらはVM0048と整合した形での開発・修正が進められています。
最終的にはVM0006、VM0007、VM0009、VM0015、およびVM0037で規定される全てのプロジェクトをVM0048でカバーすることが目標とされています。
ポイント2) 既存・新規に関わらず全てのAUDプロジェクトがVM0048に準拠する必要あり
全てのAUDプロジェクトは、プロジェクトが位置する管轄区におけるアクティビティデータが揃った時点から6ヶ月の猶予期間後までにVM0048に準拠することが求められます。既存のプロジェクトにも遡って適用されるという点が、これまでの方法論の変更とは大きく異なります。
特に、VM0009を使ったプロジェクトに対する影響が大きいです。Verraはプロジェクト開発者に対し、もし新しい方法論への移行によりベースラインが既存のものよりも低く設定された場合、以下のいずれかの方法で差分を補償することを求めています (方法論本文, p. 12):
まだ売却されていない、もしくはまだレジストリ内で有効なVCUとなっていないクレジットを無効にする。すでにクレジットが売却されている(が償却はされていない)場合は、買い手の同意を取った上でそれを無効にする。
Cancelation of VCUs from the project in the project proponent’s Verra Registry account that have not been used for offsetting purposes (“active VCUs”), or of already issued active VCUs where the project proponent gains the consent of the current owner
将来発行されるクレジットの一部を差分の補償に当てる
Replacement of the emission reductions through immediate cancelation from subsequent issuances of VCUs to the project
現在、保留中も含めると9つのVM0009を用いたプロジェクトが登録されており、合計1億2400万トンのクレジットが発行され、すでに5300万トンが償却されています(以下はこれまでの発行実績を示すグラフです)。
最近発表されたこちらの研究では、以下の4つのVCSプロジェクト、Agrocortex (VCS 1686)、Tumring (VCS 1689)、Kulera (VCS 1168)、およびCaribbean Guatemala (VCS 1622)について、既存の方法論で計算したベースラインとVM0048と同様の方法で計算したベースラインを比較しています。結果として削減量は、Agrocortexは2.7百万トンから0.54百万トンへ(80%減)、Tumringは2.8百万トンから1.9百万トンへ(32%減)、Caribbean Guatemalaは11百万トンから0.7百万トンへ(94%減)へ大幅に減少しました (単位はすべてCO2e)。一方で、Kuleraは3.1百万トンから5.1百万トンへと65%増加したと報告しています。
現時点では上述の補償ルールはVM0009にのみ適用されますが、今後他のAUD方法論のプロジェクトも何かしらの影響を受ける可能性があります。
ポイント3) VM0048はJ-REDD+ではない
VM0048と関連する枠組みとして、J-REDD+ (Jurisdictional REDD+)があります。両者は管轄区レベルでのベースラインを割り振るという点では共通ですが、VM0048の下では実施主体はあくまでも個別プロジェクトである一方、J-REDD+は国や準国レベルの管轄区が主体となってプログラムを管理するという点が異なるため、注意が必要です。
ただし、VM0048はJ-REDD+との整合性も明確に意識しています。上でも述べた通り、VM0048では基本的にVerraが計算したベースラインを用いることになりますが、プロジェクトが存在する国・準国がJ-REDD+のプログラムとして設定したベースラインを用いることも可能です。
この点については前回のニュースレターでも触れていますので、合わせてご参照ください。
また、J-REDD+の枠組みの一つであるARTの動向については以下で紹介しています。