株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、カーボンクレジットのプロジェクトタイプの一つであるTSB (Terrestrial Storage of Biomass)に焦点を当てます。
TSBとは、バイオマスを微生物活動を抑制する条件下で保管し、その炭素を数百年から数千年にわたって隔離する手法を指します。高い永続性と明確な追加性を提供するため、自主的炭素市場で新たな選択肢として注目されています。以下ではまず、TSBの炭素隔離のロジック、実施方法と考慮事項、および炭素隔離法としてのTSBの長所と短所を紹介します。その後、現行の2つのTSB方法論を紹介し、その違いを明らかにします。
セミナーのお知らせ
本題に入る前に、セミナーのお知らせです。今回は、企業バリューチェーン内に関するセミナーを実施します。
本セミナーでは、EU森林破壊防止規則(EUDR)、強制労働防止関連法(UFLPA・EU FLR)、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)、欧州バッテリー規則、炭素国境調整メカニズム(CBAM)といった主要規制を踏まえて、日本企業がとるべき具体的戦略について解説します。
タイトル: データドリブンで実現する持続可能なサプライチェーン戦略 ~CBAM・EUDR・CSDDD・UFLPA・トランプ関税・Scope 3削減への統合対応~
日時: 2025年7月8日(火)
登録ページ: こちらよりお願いいたします。
「サプライチェーン」と「サステナビリティ」部門がどのように連携すべきなのか。どのように上述の規制に対して高リスクなサプライヤーや商材を特定し、将来の規制変更の影響をシミュレーションできるのか、当社のプラットフォームを用いた定量的な分析例をご紹介します。持続可能なサプライチェーン構築検討の参考になれば幸いです。
TSBの概要
TSBの炭素隔離の原理
簡単に言えば、TSBは植物バイオマスをそのまま地中に埋め、分解による大気への炭素の再放出を防ぐことで、炭素を隔離します。植物は光合成を通じて大気中のCO₂を吸収し、有機炭素として組織内に貯蔵します。管理されていないシステムでは、このバイオマスは最終的に主に微生物活動によって分解され、その炭素含有量の多くをCO₂やメタンとして大気中に放出します。TSBは、成長の速い植生原料を収穫し、乾燥した低酸素環境や、微生物および酸化的腐敗を防ぐ特別に設計された保管システムに配置することで、このプロセスに介入します。
TSBの実施方法
微生物による分解は、酸素の制限、水分の制限、圧力の増加、微生物からのバイオマスの物理的隔離の組み合わせによって最小化できます。そのため、TSBの実施方法は複数存在します。 例えば、乾燥保管では、酸素を許容しますが水分を最小限に抑えることで分解を制限します。無酸素保管は、酸素が欠乏した状態、例えば水中に沈めることで分解を制限します。注入保管は水分を許容しますが、嫌気性および高圧条件によって分解を制限します。図1は、Zeng and Hausmann (2022)の論文で提案されている保管サイトの例を示しています。バージョン1.2はバイオマス原料を低水分・低酸素環境で保管し、バージョン2は原料を地下水面下の低酸素環境に埋設します。

管理された条件下(低酸素、低水分、物理的隔離)で保管されると、バイオマス中の炭素は数百年から数千年にわたって隔離された状態を維持できる可能性もあります。例えば、泥炭地、乾燥した墓、永久凍土をみると、千年〜数千年にわたって自然に炭素隔離が存続しているケースもあります。TSBのシステムは、環境の安定性を確保し、潜在的な劣化を監視することによって、この自然現象の永続性を再現していると考えることができます。
TSBに最も一般的に使用される原料には、木質デブリ、作物残渣(例:トウモロコシの茎、小麦わら)、侵略的外来種、スイッチグラスやミスカンサスのような専用のバイオマス作物など、成長が速く炭素含有量の高い植物材料が含まれます。これらの材料はリグノセルロースが豊富で、単純な糖やタンパク質よりも微生物分解に対する耐性が高くなっています。収穫されたバイオマスは、保管前に乾燥または前処理して水分含有量を減らすことで、腐敗が抑制されます。また、原料は理想的には地元で入手可能であり、機会費用が低く、輸送による排出やリーケージを最小限に抑えることが望ましいです。
TSBの長所と短所
次に、簡単にTSBの長所と短所をまとめます。