VerraのALM・IFM方法論のマイナーアップデート
2025年11月 Methodology Updates (2/2)
株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、先月から今月にかけて発表されたVerraの2つの方法論の更新についてご紹介します。
VM0042 Methodology for Improved Agricultural Land Management (IALM) の改訂版(v2.2)
IFM方法論の共通炭素会計ツール VT0015 Calculation of Reductions and Removals for VM0003, VM0005, VM0012, and VM0034, v1.0の公開
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*本記事の執筆者:Nick Lau (Applied Scientist)
はじめに
今月、Verraは農業および森林プロジェクトのデベロッパーに影響を与える2つの変更を導入しました。
一つは、VM0042 Methodology for Improved Agricultural Land Management v2.2のリリースです。これにより、農業プロジェクトにおける追加性の実証、排出係数の選択、土壌炭素のモニタリング、およびリーケージの算定方法が改善されました。「軽微 (minor)」な変更とされていますが、様々な変更を含みます。具体的には、各種データ要件の厳格化、一般慣行テストの明確化、デジタル土壌マッピング(Digital Soil Mapping)の許可によるSOC(土壌有機炭素)モニタリングの負荷低減、リーケージ定量化方法の変更などです。これらの変更により、デベロッパーにとっては部分的に報告負荷が上がったり、創出クレジット量が変化する可能性があります。
2つ目は、VT0015 Calculation of Reductions and Removals for VM0003, VM0005, VM0012, and VM0034の導入です。現在VerraのIFM方法論には、対象活動や利用可能地域が異なる複数の方法論が存在し、それぞれが異なるフォーマットを採っていました。VT0015により、既存の4つのIFM(Improved Forest Management)方法論において統一的な炭素会計が可能になります。クレジットの計算自体に大きな変更はありませんが、デベロッパーは今後、標準化されたモニタリング項目を使用して結果を報告し、また削減と除去を明確に区別する必要があります。また、更新された報告テンプレートを利用すること、既存のモデル出力をVT0015の構造に慎重にマッピングすること、そして緩和アウトカムのラベリングを求めるプロジェクトにおいては過去に遡った再計算が必要になる可能性があります。
以上の更新は、VerraのAFOLUポートフォリオ全体の透明性と一貫性を向上させるものであり、デベロッパーは今後のプロジェクト開発や報告において、分析や報告の手順が増えることを想定しておく必要があります。
以下では、この2つの改訂について詳しく説明します。
1. VM0042: IALM方法論の改訂
<出所: https://verra.org/vm0042-update-verra-publishes-minor-revisions-to-ialm-methodology/>
更新されたVM0042 v2.2は、Verraによって「軽微」と位置付けされているものの、方法論の技術的な厳密性と一貫性を総体的に強化する一連の改良を導入しています。これらの変更は、農業プロジェクトがどのように追加性を実証し、排出量を定量化し、リーケージを計上し、土壌有機炭素(Soil Organic Carbon: SOC)をモニタリングするかに影響します。表1は、以前のv2.1と更新されたv2.2の変更点の概要を示しています。以降のセクションでは、主要な変更点のいくつかを詳しく解説します。
表1: VM0042 v2.1とv2.2の変更点の比較
1.1 VT0008による追加性分析
追加性(Additionality)は、プロジェクトの活動がカーボンファイナンスなしには実現しないかどうかを決定するものです。VM0042の場合、不耕起栽培、肥料使用の最適化、輪作の多様化、放牧の改善といった改良された農業慣行は、それらがすでに一般的な慣行ではなく、法的義務もなく、制度的または財政的な障壁に対処することなく容易に達成できるものではない場合にのみ、追加的となります。
旧バージョンのv2.1では、VM0042には追加性評価のための独自の内部手順が含まれていました。障壁分析は、文化的、社会的、または知識的な障壁に関する定性的な説明に依存し、研究や地域的な証拠によって裏付けられていました。一般慣行テストは、プロジェクトが提案する一連の慣行がその地域で一般的に使用されているかどうかを評価するものでしたが、その手順や閾値(例:CDMツール24の20%基準など)は明確に構造化されていませんでした。このため、プロジェクトによって解釈が大きく異なり、証拠要件があいまいになることがありました。
更新されたv2.2では、これらの内部手順が標準化されたVT0008 Additionality Assessmentに置き換えられました。
まず障壁分析については、VT0008は以下を提供します:
障壁カテゴリの定義 (制度的、財政的、技術的、および情報的)
文書化に関する明確なルールと一貫した証拠基準
また一般慣行テストについては、2段階の手順を設定しています:
ステップ1: プロジェクト活動が、関連地域の農業地域の20%未満で採用されているかどうかを判断する。採用率が20%未満の場合、その慣行は一般的ではない (つまり追加的)と見なされる。
ステップ2: 採用率が20%を超えている場合、または採用データが不足している場合、プロジェクト慣行の普及を妨げる社会経済的または農学的な追加的要因があるかどうかを検討する必要がある。



