株式会社sustainacraftのニュースレターです。Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。
先月、無事に閉会を迎えたCOP29では、パリ協定6条2項と6条4項が大きなトピックであり、企業に与える影響も大きいことから、本ニュースレターを読んでいる方の多くも、概要はすでに見られているのではないかと思います。なお、COP29での内容もカバーするセミナーを、来年1月に実施します。詳細は、下部をご参照ください。
6条2項、6条4項に関する概要については、まずはIGESさんのこちらの資料などを見ていただくのがおすすめです。
本記事では、COP29直前の2024年10月に6条4項監督機関会合(SBM)にて採択され、11月のCOP29にて承認された、6条4項に関する以下2つのスタンダード(方法論、及び、吸収・除去活動に関する基準)を扱います。これらは、COP26で提示された6条4項のRMP (The rules, modalities and procedures; 規則、様式、手順) がベースとなっています。
Standard: Application of the requirements of Chapter V.B (Methodologies) for the development and assessment of Article 6.4 mechanism methodologies
Standard: Requirements for activities involving removals under the Article 6.4 mechanism
※ 1つ目の説明だけで長くなったため、2つ目の除去活動に関する基準の説明は分けて配信します。
はじめに
今回紹介する2つのスタンダードですが、どちらも、様々な活動タイプに当てはまる要件を記述しているという観点で、全体的には抽象度の高い書き方に留まっています。今後、REDD+や森林経営、植林、再生農法やバイオ炭など、活動ごとの方法論が定められていくことが予定されていますが、ここで書かれた要求がどのような形で表現されるのかについては不確実性が残っています。
全体として、厳密さを担保しながらも、ホスト国ごとの固有な状況を考慮するための柔軟性をどう確保するのか。さらに、後発開発途上国などに対してはより簡素化したアプローチをどのように提供できるのか、という観点で、要素間でトレードオフが存在する構造の中で、どの様にバランスを取っていくのか、が論点と言えそうです。
6条4項は、グローバルで統一したものを、時間をかけて多国間で合意形成していく、というものであり、それに由来するプロコン(もちろん欠点としては、合意形成に時間がかかるという点が挙げられます)がありますが、一方で、ボランタリー側ではそういった多国政府間での合意形成をせずに、素早く、かつ最新の科学的知見を取り入れていく、ということが強みとしてあります。
元々、ボランタリークレジットにおいては、植林の方法論に見られるように、京都議定書のもとでのCDMクレジットの方法論が使われる形で始まりました。その後、ボランタリーの強みを活かし、最新の科学的知見を取り入れ、そして実際に生じた様々な問題に解決するために、より厳格な方向で改定が進んできました。
今度は逆に、6条4項が、これまでのボランタリーでの発展を取り込んでいくという流れが想定されます。そもそも、今回のスタンダード策定までのプロセスにおける、これまでの議論(パブコメやそれに対する修正事項)を追っていくと、そのような流れがすでに起きてきたことがわかります。
さらに、6条2項と6条4項の関係性の分析も必要です。6条2項は、2国間での取り決めが全てであり、方法論に対する要件はある程度柔軟であると言えます。しかし、今後6条4項が入ってきたときに、どちらも各国のNDCに対して用いられることを想定すると、6条4項での要件とあまりに違う考え方が適用される6条2項クレジットが仮にあった場合には、国際的に批判されるという状況も想定されます。
最後に、これを読んでいただいている方の大半は、自社企業にとっての影響を考えられていることと思います。これについては、6条2項、6条4項ともに、結局は各国もしくはリージョナルな炭素税や排出権取引(広くCBAMのような制度も含む)において、これらのクレジットがどういう扱いになるのか、ということが最大の論点になると言えます。
この辺りの論点は、以下のセミナーでも、(私見も含め)話していきますので、ご関心のある方はぜひご参加ください。
お問い合わせはこちらまでお願いたします。
セミナーのお知らせ: 海外カーボンクレジットの最新動向 & 機会とリスク 〜COP29 & 2024年の市場を振り返って〜
以下の通り、年明けに対面でのセミナーを開催いたします。
日時: 2025/1/17(金) 14:00-16:30
場所: fabbit丸の内(東京駅から徒歩すぐ)
詳細: こちらをご参照ください
本セミナーでは、2024年のカーボンクレジット市場及びCOP29での主要な議論を振り返るとともに、案件の種類別にどのような特徴的なリスクがあるかや、案件への参画スキームとしてどのような形が出てきているかも解説します。
また、みずほ銀行及びINPEXにてカーボンクレジットの活用を含むサステナビリティ実装について長年の経験を持つ小田原、JICA/世界銀行やグローバルコンサルティングファームにて気候変動分野における幅広い経験を持つ濱口の参画を得て、弊社の強化された体制もご紹介します。
セミナー後は、弊社メンバー及びご参加の皆様とカジュアルにネットワーキング、意見交換できる懇親会もご用意しておりますので、奮ってご参加ください。
※ 本セミナーは対面のみのイベントで、有償です。会場キャパシティに限りがあるため、場合によってはご参加頂けない可能性がある旨をご了承頂ければ幸いです。申込フォームにて、できる限りカーボンクレジットに関する実績や御社の方針を記載いただきますようお願いいたします。
※ 席の余裕にもよりますが、研究機関やNGOの方は、無償でご参加いただくことも検討しております。ご関心あれば、まずは申込いただけますと幸いです。
Standard: Application of the requirements of Chapter V.B (Methodologies) for the development and assessment of Article 6.4 mechanism methodologies
(link)
このドキュメントでは、「原則(セクション4)」と、個別の項目として「追加性(セクション5)」、「リーケージ(セクション6」、「非永続性および反転(セクション7)」に関する事項への要求が書かれています。
ここでは、なるべく原文の流れに沿った形で、どのような粒度で記載されているのかを紹介します。また、各項目に関して、当社としてのコメントを冒頭にブロック内にて記載しています。ブロック内コメント以外は原文の和訳に近い内容です(必ずしも対訳が正しい(一般的に使われている)ことを保証しているものではない旨、ご了承ください)。それぞれの文の括弧内の番号は、元の条文の番号です。互いに番号を参照しているケースがありますので、参考までに相当する番号を付与しています。RMPは別のドキュメントになりますが、原文はこちらをご参照ください。
先に、いくつかのトピックについてコメントです。
<ベースラインについて>
ベースラインに関する要件(4.1 野心の促進、4.3 BAU以下の基準設定、4.6 ベースラインの設定、4.7 ベースラインの下方修正、4.12 標準化されたベースライン)については、比較的明確でかつ厳しい要件が設定されているように見受けられます。これは、この数年の排出削減系案件に対する批判、及び、吸収系案件への需要シフトの中で、適切な形で排出削減系も含めていくための厳格化という方向と捉えられると考えます。
排出削減と吸収は、気候変動への影響は理論的には同様ですが、排出削減は、プロジェクトがなかった場合には何が起きていたのかという、(実際には観測できない)反実仮想的なベースラインの設定が、これまでクレジット過剰発行の最大の要因となってきました。関連する話題としては、こちらの記事もご参照ください。
<追加性について>
追加性については、CDMの追加性ツールはこれまでしばしば批判の対象となってきました。ボランタリークレジットのスタンダードであるVerraも、これまでは追加性分析ツールとしてCDMベースのものを用いていましたが、今年の9月に独自のより厳格な追加性ツールを発表してパブコメを開始しました(こちらの記事をご参照ください)。
今後は、6条4項の方法論は、これまでのボランタリー市場で起きてきた批判やそれに対する改訂を考慮した形で定められていくことが想定されます。なお、既存のCDMクレジットは、追加性がない案件が多くあると指摘されており、今後そのような案件が6条4項クレジットに移管することに対して、懸念の声が多く上がっています。実際、先日もCDMの再エネ系方法論は追加性ツールに問題があると指摘され、CCPとして認められませんでした。
<REDD+について>
REDD+は、CDMクレジットにおいては、対象となる活動には含まれていませんでした。今回出されている基準において、「REDD」という言葉は登場していませんが、セクション6の「リーケージ」の項目において、「パリ協定第5条2項の範囲に該当する活動については」という記述があります。第5条2項は、いわゆるREDD+に関する条文となっており、すなわち6条4項クレジットにおいて、REDD+が含まれることが想定されていると言えるのではと考えます。
それでは、ここからそれぞれの内容を紹介していきます。
4.1. 野心の促進 / Encouraging ambition over time
SCコメント:
・「野心的なベースライン」の具体例としては、J-REDD+のスタンダードであるART-TREESベースラインの定め方などが挙げられると考えます。
・何を持って「野心的なベースライン」と言えるかについては、「4.6ベースラインの設定」や「4.7 ベースラインの下方修正」にも関連する要件の記載がありますが、ホスト国ごとの状況を踏まえる柔軟性が考慮されています。
(17/18) ホスト国の状況を考慮しながら、時間の経過とともにますます野心的なベースラインを適用して、活動の野心を奨励しなければなりません。
(19) 特定の場所で広く使用または利用されていない技術や対策の展開を促進し、知識移転を促進し、脱炭素化のコストを削減し、低炭素ソリューションへの投資を促進する技術や対策の展開を奨励する必要があります。
(20) 初期展開後、より効率的で温室効果ガス(GHG)排出量の少ない技術、複製可能で拡張可能な緩和活動、ユーザーベースの拡大、地理的範囲の拡大、低炭素ソリューションの普及促進を段階的に含めることを促進する規定を含める必要があります。
4.2. 現実性・透明性・保守性・信頼性 / Being real, transparent, conservative, credible
SCコメント:
・この内容の記述であれば、現状のVerraやGold Standardで用いられている大半の方法論は問題ないと想定されます。
・「ユーザーフレンドリー」なMRVが具体的にどのような要件となるのかは興味深い(中央集権的なレジストリーで、透明性、保守性、信頼性を担保するためには、高度にデジタル化されていること重要と考えます)。