株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションA(市場動向編)です。
«VCM Updatesの構成»
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向 ← 本記事の対象
クレジット発行・償却・投資動向分析
プロジェクトパイプライン分析
詳細解説セクション
自然由来案件への投資案件
クレジット償却企業のケーススタディ
プロジェクトパイプラインケーススタディ
B. 海外の主要規制の動向
はじめに
クレジットの発行・償却・投資動向、及び、案件パイプライン動向について
クレジット発行の動向としては、量に関しては全体で見ると前年同月比で3割以上減少していますが、自然由来に限るとほぼ横ばいです。発行レジストリの割合に関しては、全体でGS、ACRがVCSと同程度のシェアを持つ傾向が引き続き続いています。償却の動向として、量に関しては前年同月比で大きな変化はなく、レジストリの割合としても引き続きVCSが大半を占めています。自然由来案件への投資として、本記事ではRio Tintoやペトロブラスなど、6件の取り組みを紹介します。
新たなパイプライン案件は3件と今回はあまり多くはありませんでしたが、引き続き、VerraのVM0047(陸域の植林・再植林)とVM0042(再生農法など農地管理)といった除去クレジットを創出する案件の傾向が続いています。
償却企業ユースケースについて
2024年10月のクレジット償却企業のユースケースとして、本記事ではフランスの物流会社であるGeopostと、米国の金融機関であるJP Morgan Chaseを特集します。
物流業界では、輸送の過程で発生する排出量をオフセットすることが、特に日本ではよく行われています。例えば11月のニュースレターではヤマト運輸の償却について触れました。今回取り上げるGeopostは、2024年以降は配送に伴う排出のオフセットを停止すると発表している企業です。今回確認された償却は2023年の排出のオフセットに使用されたもので、来年以降は償却が減少する可能性があります。
金融業界でのカーボンクレジット利用に関して、Net Zero Banking Alliance(NZBA)の目標設定ガイドラインでは、最終的なネットゼロを達成するためのカーボンクレジットへの依存は、技術的または経済的に実行可能な排出削減代替手段が限られている場合に、残余排出量をバランスするための炭素除去に限定されるべきとしています。なお、中間目標に対する利用に関しては、同ガイドラインでは明確なアプローチは特定されていません。この記事では、NZBAのメンバーでもあるJP Morgan Chaseが、どのようにクレジット償却をしてきているかを紹介します。
なお、NZBAについては、つい最近Goldman Sachsが脱退を表明したことでも話題になりました。この背景には、米国における政治的圧力、特に石油・ガス業界への資金アクセスの制限を懸念する共和党からのプレッシャー等があると分析されています。Goldman Sachsは、NZBA脱退後も持続可能性へのコミットメントを維持し、再生可能エネルギーなどへの投資を継続するとしています。しかし、この脱退は、他の金融機関の動きを誘発し、金融業界の気候変動対策の勢いを弱める可能性があるとして、懸念も表明されています。金融業界の動向についても、動きがあり次第、引き続きニュースレターで紹介していきたいと思います。
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向 (Verra)
A-1: クレジット発行・償却・投資動向分析
- 分析対象レジストリー: VCS(Verra)、GS(Gold Standard)、CAR(Climate Action Reserve)、ACR(American Carbon Registry)、Puro (Puro.earth), Isometric
- 対象期間: 2024年11月
- 留意事項: 償却した企業について、レジストリーに対して実名での登録は義務付けらておらず、正確性は保証できない旨ご了承ください。また、レジストリーへの反映には遅れがありますので、今後も本対象期間中について案件の増減やステータス変更の可能性があることにご留意ください。
本対象期間の発行・償却実績は以下のとおりです(括弧内は前年同月比)。
発行実績: 15.99百万(-36%)、うち自然由来6.00百万(+1%)
償却実績: 14.84百万(+5%)、うち自然由来7.01百万(-13%)
<発行された案件リスト>
以下は、本対象期間にクレジットが発行されたプロジェクトの上位10件です。
<償却された案件リスト>
本対象期間に最も多く償却されたトップ10の自然由来プロジェクトの一覧は以下の通りです。
<償却企業リスト>
対象期間中に自然由来プロジェクトのクレジットを償却した上位10社は以下の通りです。このニュースレターでは、フランスの物流会社であるGeopostと、米国の金融機関であるJP Morgan Chaseを特集します。ENTEGAとPetroChinaは、これまでに何度も取り上げてきたエネルギーおよび石油・ガスセクターの企業であり、今号のニュースレターでは割愛します。PetroChinaに関する詳細は8月のニュースレターをご参照ください。
<自然由来プロジェクトへの投資動向>
- 対象期間: 2024年11月
- 留意事項: 自然再生やREDD+、及び、自然由来系のCDR案件に対する投資を取り上げています。また、「クレジット量」や「投資額」については、今後の想定値である場合があります。
11月には、自然由来のプロジェクトへの重要な投資が6件ありました。
A-2: プロジェクトパイプライン動向
分析対象レジストリー: VCS(Verra)、GS(Gold Standard)
対象期間: 2024年11月
留意事項: レジストリーへの反映には若干タイムラグがあるため、今後本対象期間についても案件の増減やステータス変更の可能性があることにご留意ください。
用語: 年間ERとは、年間の排出削減・吸収量(tCO₂e)のことを指します。
このセクションでは、まず新しいパイプラインプロジェクトを紹介し、その後、前回のニュースレターに反映されていなかった先月のパイプラインでの重要な変更点をレビューします。
<今月分パイプライン>
パイプラインには、すべての種類を含めて合計12件のプロジェクトがあり、自然由来案件に関しては以下の3件が含まれています。
<前月パイプラインの重要変更点>
先月のニュースレターでは、10月のパイプラインに11件の自然資本プロジェクトが含まれていましたが、最新のデータ更新後、新たに1件のプロジェクトが追加されました(VCS-5294)。
A-3: 詳細解説セクション
このセクションでは、前述で紹介した償却企業や投資案件、パイプライン案件についての一部案件について、より詳細な解説をしています。
<自然由来プロジェクトへの投資動向>
このセクションでは、先月に発表された自然由来案件への投資に関する内容について紹介します。