株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションA(市場動向編)です。
本記事では、4月の償却量の大きい企業の中から、主にMicrosoftとNetflix、及びMicrosoftに関連して、自然由来案件へのファイナンスを目的とした企業連合であるSymbiosisの動きをケーススタディとして紹介します。
2024年に入ってから、米国テック企業群がカーボンクレジットの調達に対してかなり活発な動きを見せており、これまでとは異なる需要セグメントが見えてきています。これまでVCMを牽引してきたのは石油・ガス業界を中心とするエネルギーセクターで、再エネ系案件やREDD+など、「回避系」のクレジットを多く償却してきました。それに対して前述の企業群は「吸収系」クレジットを重視しており、自然由来の案件だけでなく技術由来のCDR(Carbon Dioxide Removal)についても積極的に調達・投資を進めています。
これまでのメインプレイヤーであるエネルギーセクターの企業群は回避系案件との相対感でARRなどを中心とした自然由来の吸収系クレジットを見ていますが、後者の企業群はCDRとの比較感で吸収系クレジットを見ています。その結果として、市場での取引価格は分散が非常に大きい状況となっていますが、後者の企業群の活動はすでに市場に大きなシグナルを与えており、最近当社で評価をしている自然由来の植林案件パイプラインについても、この半年で大幅に供給側からのオファー価格は上昇しています。
これまで見ている限り、後者の需要セグメントはテック企業群以外では、一般的に高収益とされる製薬企業も挙げられます。これら以外のインダストリーの吸収系クレジットに対する調達方針が、前者と後者どちらの需要セグメントについていくのか、現時点では不透明です。これには先日紹介したSBTにおけるScope3排出に対するカーボンクレジットでの相殺を認める可能性の件など、様々な枠組みでのカーボンクレジットの位置付けが影響を与えると考えており、EUのGreen Claims Directive(グリーンクレーム指令)のような強制力の強い枠組みにおいてCRCF(Carbon Removal Certification Framework)のような除去クレジットのフレームワークが明確に参照されたことなども注視する必要があります。この辺りの話については、VCM updatesのSection B(主要規制の動向編)にて通常扱っております。
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«VCM Updatesの構成»
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向 ← 本記事の対象
クレジット発行・償却分析
プロジェクトパイプライン分析
B. 海外の主要規制の動向
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向 (Verra)
A-1: クレジット発行・償却動向
- 分析対象レジストリー: Verra、GS(Gold Standard)、CAR(Climate Action Reserve)、ACR(American Carbon Registry)
- 対象期間: 2024年5月
- 留意事項: 償却した企業について、レジストリーに対して実名での登録は義務付けらておらず、正確性は保証できない旨ご了承ください。また、今月から、これまでAFOLU(Agriculture Forestry and Other Land Use)としていたものを「自然由来」と表現しています。
本対象期間の発行・償却実績は以下のとおりです(括弧内は前年同月比)。
発行実績: 15.82百万(-39%)、うち自然由来 4.67百万(+15%)
償却実績: 6.55百万(-27%)、うち自然由来 2.84百万(-9%)
本対象期間に償却された自然由来プロジェクトの一覧は以下の通りです。上位20件のプロジェクトで、償却全体の約83%を占めています。
最初のプロジェクトであるKatahdin Forestry Project(償却量の21%を占める)は、Anew Climateによる米国IFM案件です。IFM案件は一般に吸収と回避削減の両方の効果がありますが、それぞれのレジストリーにおいて、全体のクレジット量に対して明確に「吸収系」のラベルが付与される運用が始まっており、中でもACR案件からはこれまでですでに500万ユニット以上のクレジットに対して吸収系ラベルが付与されています。
本対象期間で自然由来案件のクレジットを償却した上位20社は以下の通りです。Microsoftは、最も多くのクレジットを償却した企業です。次に、NetflixとPetrobrasが続きます。このニュースレターでは、Microsoft、新たに設立されたSymbiosis Coalition、そしてNetflixに焦点を当てます。
企業ケーススタディ
Microsoftによるクレジットの調達に向けた最近の取り組み(新たに設立されたSymbiosis Coalitionを含む)
Microsoftは2012年以来カーボンニュートラルを達成しています。2020年には、2030年までにカーボンネガティブになること、そして1975年の会社設立以来の全ての炭素排出を2050年までに除去するというコミットメントを宣言しました(出典)。つまり、2030年以降、同社は排出する以上の炭素を除去することになります。これらは野心的な目標であり、一般的なものではありません。
2020年の初のサステナビリティレポートで、同社は2019年にScience Based Targets initiative(SBTi)から認証を受けました。しかし、2024年3月に、SBTiはP&G、ユニリーバなどを含む239社を「コミットメント削除」というステータスに変更しており、Microsoftもその1つでした。この件は先日こちらの記事でも紹介しています。これに対して、同社は当社の野心的な目標が影響を受けないことを述べたプレスリリースで応答しました(出典)。
以下では、同社のこれまでの償却、及び、将来に向けた調達契約を紹介します。