株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(主要規制の動向編)です。
今月は以下2件を取り上げます。
バイデン政権(ホワイトハウス)がボランタリーカーボンマーケットへの責任のある参加に向けた原則を発表
EUがGreem Claims Directive(グリーンクレーム指令)の見解を採択
1について、ほとんどの内容はカーボンクレジットの品質の議論でいつも強調されていることであり、
緩和ヒエラルキーに沿って自社バリューチェーンの削減を重視すること
(利用する場合には)高い品質のクレジットを利用すること
利用した場合にはきちんと開示すること
といった内容で大きな驚きはないのですが、7つの原則のうち、原則5の中での説明では、明確にスコープ3の排出に関して、hard-to-abate(削減が困難である)企業に対してはクレジットによるオフセットを認めるようなことをバイヤー向けのフレームワークは考えるべきだ(should consider)と表現していることは注目すべきことであり、企業においてScope3の排出削減が進んでおらず、かつその目処が立っていないことに対するバイデン政権からの声明と感じました。ここでのバイヤー向けフレームワークは明記はされていませんが、その表記からおそらくVCMIやSBTのようなものを指していると想定されます。
2のグリーンクレーム指令は、すでに採択されているグリーンウォッシュを防止し、誤解を招くような環境表示の使用を禁止する新法を補完するもので、違反した場合に対する明確な罰則が明記されました。また、カーボンオフセットの利用はあくまでも残余排出量に対してのみ許されており、かつそれはEUの除去フレームワークであるCRCF(Carbon Removal Certificate Framework)に基づいて認証されたものでなくてはならないということで、これまでVCMの発行・償却量を占めてきた大半の回避系のクレジットはこの文脈では明確に使えないこととなりそうです。 今後、本会議で採決が行われる予定です。CRCFの詳細はこちらの記事で紹介していますのでこちらもご参照ください。
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(2024/6/21、2024/8/5一部修正しました。)
«VCM Updatesの構成(2024年6月)»
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向
クレジット発行・償却分析
プロジェクトパイプライン分析
B. 海外の主要規制の動向 ← 本記事の対象
B. 海外の主要規制の動向
(1) バイデン政権(ホワイトハウス)がボランタリーカーボンマーケットへの責任のある参加に向けた原則を発表
バイデン政権として、ホワイトハウスがボランタリーカーボンマーケットへの責任のある参加に向けた原則「a Joint Statement of Policy and new Principles for Responsible Participation in Voluntary CarbonMarkets (VCMs)」を発表しました。これは、財務省(Secretary of the Treasury)、農業省(Secretary of Agriculture)、エネルギー省(Secretary of Energy)、そのほか複数のアドバイザーによる共同署名がされています。
何度も強調されているのは、「High-integrity」(高い十全性)なクレジットを使いましょうということで、追加性があること、プロジェクト活動が環境的もしくは社会的に悪影響を与えないことなどが強調されています。また、「demand integrity」という言葉も使われています。これは、プロジェクト側でのカーボンクレジットの品質に加えて、使う側の立場にとっても自社バリューチェーン内でのGHG削減を重視すること、カーボンクレジットの調達においても数量や価格ではなく品質を重視することが挙げられています。さらに、クレジットを購入・償却した場合には、その内容を開示することも言及されています。
では、以下で発表されている7つの原則と、その説明を紹介します。
1) Carbon credits and the activities that generate them should meet credible atmospheric integrity standards and represent real decarbonization.
それぞれのプロジェクトに対する要請として追加的で、永続性があり、堅牢なベースラインを採用し、妥当性確認・検証(Validation and Verification)を受けていることなどが挙げられています。
ここで、ベースラインについてはなるべく時間軸で変動するべきであり、可能な限りパフォーマンスベースのベースラインを採用すること(これは例えばVerraの最近の方法論であればIFMにおけるVM0045やARRにおけるVM0047、REDD+のVM0048のような動的ベースラインのことを指していると思われます)、と書かれており、政府が出す種類の声明としては、最近のVCMでの方法論厳格化に向けた改訂が反映されたテクニカルな内容も含んだものとなっています。
クレジットの認証機関に向けた要請としても、CCP(Core Carbon Principle)のプログラムレベルの要求に類似するような内容が記載されています。