株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事ではVCSの高品質なARRプロジェクトに対するラベルであるABACUSについて紹介します。
ABACUSラベルのガイダンスに対するパブリックコメントは去年の11月に募集されていましたが、その結果を反映した正式版がv1.0として先月に正式に公開されました。適格条件を満たせば次回のverificationのタイミングから付与申請が可能です。公開されたv1.0はドラフト版から大きな変更はないようですが、以下では改めてv1.0での要件を紹介します。
また、ABACUSはVM0047プロジェクト限定ではありますが、クレジットの質を担保するという意味でICVCMのCCPに近い位置づけであり、CCPの競合と見る向きもあります。マーケットの反応は、ABACUSの登場により品質に関する議論が加速するのではというポジティブな意見と、さらなる混乱を生むというネガティブな意見が混在しています。これらの背景についても簡単にご紹介します。
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ABACUSラベルの正式運用開始 (Verra)
(出所: Verra website, 2024年8月19日アクセス)
7月末にVerraは高品質なARRプロジェクトに対して付与可能なABACUSラベルの運用を正式にスタートしたことを発表しました。ABACUSは米企業のAmazonが主要メンバーとして参加する1ワークグループにより開発されたラベルです。付与の対象となるのは方法論VM0047を用いたARRプロジェクトです。ABACUSの主な要件はVM0047の要件と重複する部分も多い2ですが、いくつかの観点でVM0047より厳しい条件が求められています。
昨年の11月にABACUSの要件を定めたドラフトに対するパブリックコメント(以下、パブコメ)が募集された際に、以下のニュースレターでドラフトの内容と論点を紹介しました。今回の正式版はパブコメを基にドラフトを修正したものとなっていますが、基本的な要件な元のドラフトからあまり変わっていません。よって以前のニュースレターと重複する部分もありますが、改めて以下では最終的に採用された要件の4つの軸、1) 追加性とベースライン、2) 透明性、3) 永続性、4) リーケージについて、パブコメの内容とともに紹介します。
ABACUSラベルの要件の概要
要件1: 追加性とベースライン
原則:プロジェクト期間全体を通じて、対照群の炭素ストック変化を追跡するダイナミックパフォーマンスベンチマークを使用しなければならない
本要件については、VM0047に従い、ダイナミックベースラインの方法を使用してベースラインおよび追加性を動的に評価することが求められます。
加えて、ABACUSラベルでは以下の要件が追加的に設定されています。
コントロールプロット設定の客観性の担保
コントロールプロットとのマッチングに用いられる植生指数の時系列は少なくとも5時点 (5年分)を考慮する
VM0047では過去8-10年で最低3時点を考慮
より多く時点を考慮することで、プロジェクト実施者にとって都合のよいプロットを恣意的に選べてしまう可能性を低減する (可能な限り長く遡ってマッチングを行うことが推奨される)
コントロールプロットの設定手順、場所、毎年の植生指数の値を公開する
VM0047のモニタリング要件には場所と植生指数の値は入っていない
ファイナンスの追加性の担保
パフォーマンスベンチマークに加えて投資バリア分析を行い、ファイナンスの観点でも追加性があることを示す
VM0047では、投資バリア分析はプロジェクトにクレジット以外の経済的インセンティブがある場合にのみ実施すればよいステップ
プロジェクト開始時点における期待クレジット量の算出も行い、クレジット収益がプロジェクト運営に不可欠であることを示す
これらの点については、パブコメ時のドラフトから大きな変更はありません。