株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事ではVerraのVCS StandardのメジャーアップデートとなるVersion 5のドラフトに対するパブリックコメントの結果についてご紹介します。
お問い合わせはこちらまでお願いたします。
お知らせ: ウェビナー開催(2025/3/25)
「日本の最新のNDCと、GX/ETSおよびSBTiを想定した炭素クレジットの供給ポテンシャル」というトピックにて以下の通りウェビナーを開催いたします(申し込みはこちら)。
2月18日、日本政府が、これまで提出していた2030年のNDCに加え、2035、2040年のNDCをUNFCCCに提出しました(原文はこちら)。その内容は、2050年ネット・ゼロの実現に向けた直線的な経路にある野心的な目標として、2035年度、2040年度において、温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指す、というものです。また、二国間クレジットメカニズムであるJCMについても、2030年までの累計1億ユニットという既存の目標に加え、2040年までに累計2億ユニットという新たな目標も発表されました。
SBTi(Science-Based Target initiative)からは、企業ネットゼロ基準の次の改訂(Version 2)に向けて、残余排出量に対する除去クレジットによる「中和」に関して、中間目標を設定する方向で議論が進められています。
NDCの数値も踏まえ、今後GX/ETSの中で活用可能な炭素クレジットの需給はどのように考えられるでしょうか。また、SBTiの文脈でのネットゼロを達成する上で、残余排出量の「中和」に向けた除去クレジット調達に対する昨今の投資動向や、案件パイプラインはどのように進捗しているでしょうか。
ウェビナーでは、上記のトピックや、JCMクレジットに対して影響を与えると想定される、6条4項メカニズムに関する最近の動向についてもカバーする予定です(6条4項やSBTiの最近の動向については、こちらの記事でも先日紹介しています)。
タイトル: 日本の最新のNDCと、GX/ETSおよびSBTiを想定した炭素クレジットの供給ポテンシャルの解説
日時: 3/25(火)13:30-15:00
申し込み: こちらより申し込みください
参加費: 無料
定員: 500名(Zoom Webinar)
※ 個人の方、同業・類似他社やコンサルティング業界の方はお断りさせて頂く場合がございます。 会社メールでの登録をお願いします。
※ お申込後、数日以内にURL付きの詳細メールをお送りします。セミナー参加に関するご質問・ご相談などがございましたら、press@sustainacraft.com までご連絡ください。
VCS Standard Version 5のドラフトの初回パブリックコメントの結果 (Verra)
(出所: VCS Program Version 5: Responses to First Public Consultation, 2025年02月19日アクセス。以下断りのない限り、画像の出所はリンク先のドキュメント。また、日本語の引用部分の元は下に記載の過去弊社ニュースレター)
VCS Standardは、VerraのVCSプログラムで実行される様々なタイプのプロジェクトで共通して利用されるガイダンスです。VCSプロジェクトの原則や、登録に至るまでのプロセス、永続性の考え方、セーフガードに関する考え方など、プロジェクトタイプに関わらず適用される基本的な考え方を定めた文書となっています。
現在Verraは、VCS StandardのメジャーアップデートとなるVersion 5の開発を進めています。昨年の9月の初期ドラフトが公開され、パブリックコメント (以下、パブコメ)が募集されていました。このドラフトの内容については、昨年10月の以下のニュースレターで詳しく紹介しています。
これらのニュースレターでも述べた通り、今回はメジャーアップデートのドラフトとなりますので、様々な観点での変更が提案されています。
そして先月、初回パブコメに対して寄せられたコメントをまとめた文書が公開されました。本ドラフトに対する業界の注目は高いようで、今回のパブコメには61のステークホルダーから、合計1,943件のコメントがあったようです。以下は回答者の構成です。
62%:プロジェクトディベロッパー
10%:企業/エンドユーザー
8%:非営利団体
7%:コンサルタント
2%:検証/認証機関 (VVB: Validation/Verification Body)
11%:その他(例:銀行・投資機関、国連機関、教育機関)
回答者の6割以上がプロジェクトディベロッパーとなっています。そのため、全体的な傾向としては、クレジット供給側の負荷が高くなる提案内容についてはネガティブな回答が多く、一方で負荷が下がる、もしくは収益が高くなる提案内容についてはポジティブな回答が多いですが、このような回答者の構成が背後にあることに注意が必要です。
今回の発表では、Verraからのコメントとして、フィードバックを元に次回のパブコメまでに具体的にどうするかまで表明しているものは多くありません。そのため、今後提案内容がどう変化しそうかを判断することは困難です。過去の別のパブコメとその対応を見ていると、必ずしもVerraが多数派の意見をそのまま採用しているわけではなく、ディベロッパーとの間にもある程度の緊張関係が保たれているようにも思えます。しかし、最近では方法論の厳格化に伴い、一部では別のレジストリーに移行する「Verra離れ」のような状況が起きているとも耳にします。そのような背景も念頭に起きつつ、今後Verraが今回のフィードバックをどのようにドラフトに反映するのか、注目が集まっています。
以下では、まずは現時点での情報の整理として、以前のニュースレターで触れたトピックに対して、その背景のおさらいと、パブコメの回答のサマリーを紹介します。
なお、以下のセクションの冒頭の数字は、ドラフトのセクション番号に対応しています。
(1.4) 事前検討の証明の要求 (永続性)
背景・提案内容
まず、提案の背景を振り返りましょう。
追加性とは、プロジェクト活動によるGHGの削減・吸収量がそれがない場合よりも大きく、かつその活動はカーボンクレジットのメカニズムがないと起き得えないことを意味します。クレジットの質を担保するうえでこの追加性の証明は重要な要素であり、現在ICVCMではその基準の改訂を検討しています。それに対応する形で、今回のメジャーアップデートでは事前検討 (prior consideration)の証明を追加することが検討されています。
事前検討とは、プロジェクトの活動を始める前の時点でカーボンプロジェクトとして登録する意図があったことを意味します。つまり、通常の経済的行為として活動を行っていたが、後になってクレジットを発行できる可能性が出てきて、事後的にカーボンプロジェクトとして登録する、という行動を認めないということです。
現状のVerraの基準では、プロジェクト開始時点から妥当性確認 (validation)と登録 (registration)までの最大期間についての規定はありますが、事前検討の証明は求めていません。具体的には、AFOLUプロジェクトでは、プロジェクトを開始してから3年以内にパイプラインへの掲載をリクエストを行い、かつ妥当性確認を最大8年以内に行えばよいとされています。
REDD+やARRなどのAFOLUの領域では、現在のようにカーボンレジストリーが整備される前から自主的に森林保護策や植林を行っていた先進的な活動も存在します。現行基準ではそのような活動も一部事後的にクレジットにより収益化できる可能性がありますが、今後はそのようなことができなくなるという点で、一部のディベロッパーにとっては非常に影響の大きい変更となりそうです。
以上に対して、提案されていた変更点は以下の3点です (以下、引用元を一部修正)。
提案1: 全てのプロジェクトについて、プロジェクト活動の開始前に“under development“もしくは”under validation”としてパイプラインに載せることを求める
提案2: プロジェクト登録の締切に関する規定を厳格化する
規定の期間内での完了を求めるのは、妥当性確認 (validation)ではなく、登録完了 (registration)とする
かつ、パイプライン掲載から登録完了までの期間に制限を設ける
提案3: グループプロジェクトではインスタンスレベルでのパイプライン掲載プロセスを設ける
なお、パブコメの結果によっては、3点全てではなく、一部のみ求めることもありうるとしています。