株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(海外の主要規制の動向編)です。
本記事では、以下のトピックを扱います。
パリ協定6条に関するCOP29以降での進展
SBTi 企業ネットゼロ基準 V2に向けた動向
はじめに
パリ協定6条に関するCOP29以降での進展
2024年12月の記事でもお伝えしたとおり、COP29前後ではパリ協定6条に関して、進展がありました。6条4項については、方法論スタンダード/除去活動スタンダードが合意に至り、今後方法論が開発されていきます。
6条4項メカニズムにおいて、どの程度の供給ポテンシャルが見込まれるのかは、現時点では不確実性が大きいですが、これらを見通す上で参考になる情報がいくつかはすでに存在します。
本記事では、6条4項クレジットに関して、各国政府やプロジェクト実施機関が提出している、以下2つの内容を紹介します。
Participation Requirements: 各国政府が6条4項においてどのような活動を想定しているのか
Piror Consideration: プロジェクト実施機関がUNFCCCに提出している6条4項の案件パイプライン
前者については、現時点では、Bangladesh, Benin, Bhutan, Chile, Dominican Republic, Ghana, India, Mali, Morocco, Myanmar, Nepal, Sri Lanka, Togo, Ugandaの14カ国から、6条4項でのクレジット創出が想定している活動内容が提出されています。
後者については、977案件が提出されており、これらの案件の年間想定GHG削減・吸収量は8.3億tCO2e(*)に上ります。その大半をインドが占めています。一方で、これらの案件が、これから開発される6条4項メカニズムにおいて適格な活動になるのか、仮になるとしても、定められる方法論において、6条4項のもとでクレジットを創出することがベストシナリオと言えるのか、など様々な不確実性が存在します。特に、現時点で提出されている案件の大半は、省エネや再エネなどのエネルギー案件が大半を占めており、追加性要件が厳格になると想定されている6条4項の方法論において、これら全てが適格な活動となる可能性は高くないと考えます。
6条4項クレジットは、日本企業においては、GX/ETSでの活用は現時点では認められていないこともあり、直接的な関係性はあまり明確ではありません。一方で、JCMクレジットの供給ポテンシャルには大きな影響を与えうると考えられます。なぜなら、相手国政府からすると、6条4項クレジットを進めるのか、JCMを進めるのか、リソース配分の問題となるからであり、かつ、案件をどちらのスキームで進めるか、ということも、ある種競争関係にあります。
また、6条4項クレジットに関して、各国政府から提出されている活動対象は、JCMクレジットでどのような活動をホスト国政府が対象とするか、を考える上でも有用なインプットになります。炭素クレジット輸出国の立場としては、どの活動を自国のNDCに活用し、どの活動は他国への輸出対象と考えているか、を表すものになるからです。
(*) 8.3億tCO2eという規模感は、日本全体での排出量に近い数字です。今年の2月18日に、日本政府はUNFCCCに2035年及び2040年のNDCを提出していますが、以下のような内容です(Source)。
2035 年度、2040 年度において、温室効果ガスを 2013 年度からそれぞれ 60%減の 5億7,000 万 t-CO2、73%減の 3億8,000 万 t-CO2とすることを目指す。
ちなみに、2021年に提出されていた2030年のNDCは、以下です。
2030 年度において、2013 年度比 46%減の7億6,000 万 t-CO2を目指す。
また、6条の協力的アプローチの元での排出削減ポテンシャルとしては、土地利用由来だけで、本研究によると、2030年断面で25億tCO2/年程度が見積もられており、6条クレジットのポテンシャルとしては現状のパイプラインよりもずっと大きいと考えられます。
SBTi 企業ネットゼロ基準 V2に向けた動向
2つ目のトピックとしては、SBTiの企業ネットゼロ基準 V2に向けた動向を紹介します。CNZS(Corporate Net-Zero Standard)として知られる「企業ネットゼロ基準」ですが、Version 2の改定に向けた動きが進んでいます。2025年3月から、60日間ほどのパブコメが始まるようです。
今回の改定において、どのようなトピックが予定されているでしょうか。2024年7月に「Scope 3 Discussionペーパー」として出された、Scope 3に関する目標設定に加え、残余排出量に対する中和において、除去に関する中間目標(Interim Removal Targets)の導入が検討されているようです。この除去に関する中間目標の導入については、業界では話題となっており、CDRに特化したプレイヤーは歓迎しています。
Version 2の改定に向けた、これまでの発表内容としては、炭素クレジットを含む環境属性証書(EAC)に関する調査結果や、Scope 3ディスカッションペーパーなどが挙げられます。これらについては、こちらのセミナーにてかなり詳細な解説をしていますので、もし興味のある方はアーカイブ配信をご登録ください。
本記事では、V2に向けた改定内容やパブコメ対象を紹介します。