sustainacraft Newsletter

sustainacraft Newsletter

Share this post

sustainacraft Newsletter
sustainacraft Newsletter
パリ協定6条4項下でのベースラインとリーケージの計算

パリ協定6条4項下でのベースラインとリーケージの計算

2025年05月 Methodology Updates (2/2)

sustainacraft's avatar
sustainacraft
May 27, 2025
∙ Paid
1

Share this post

sustainacraft Newsletter
sustainacraft Newsletter
パリ協定6条4項下でのベースラインとリーケージの計算
Share

株式会社sustainacraftのニュースレターです。

Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、今月開催されたパリ協定6条4項の下でのベースライン設定とリーケージの取り扱いを定めたガイダンスについて紹介します。

はじめに

2025年5月中旬に、パリ協定6条4項の監督機関会議であるSBM (Supervisory Body Meeting)の第16回 (SBM 016)が開催されました。こちらの概要については、今月の弊社ニュースレターのVCM編でも簡単に取り上げています。

2025年5月 VCM Updates Section B

2025年5月 VCM Updates Section B

May 26
Read full story

SBM 016の重要な決定は、6条4項の下でのベースライン設定とリーケージの取り扱いを定めた基準が採択されたことです。これらの基準の位置付けは、普段このニュースレターで紹介しているVM0048やVM0042のようにプロジェクトディベロッパーがPDDを作成するために参照する個別の方法論ではなく、6条4項の下で取引可能とする方法論の要件を定めたガイダンスというものになります。つまり、個別の方法論の開発者が参照したり、それを6条4項の下で使用を認めるかをSBMが判断するために参照する目的で使用します。なお、現時点での本基準の対象は個別プロジェクトレベルの方法論 (例: VM0048)ですが、将来的にはより大きなスケール (例: JNR)に対しても適用できるように修正する可能性があるとのことです。

本稿では、まずSBMの概要とこれまでの議論を簡単に紹介した後、今回採択されたベースライン設定基準とリーケージ基準の内容をそれぞれご紹介します。

パリ協定6条4項・SBM・MEP

パリ協定6条は、締約国が排出削減目標(NDC)を達成するために、国際的に協力する際の仕組みを定めています。これには、二国間や多国間で排出削減量を移転する市場メカニズムや、市場を介さない協力アプローチが含まれます。その中でパリ協定6条4項は、国連の監督下で運用される特定の排出削減プロジェクトから生じたクレジット(A6.4ERs)を国際的に移転するための具体的なメカニズムを規定しています。位置づけとしては、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)の後継に当たりますが、具体的な規則はCDMの教訓を活かして一から設計されています。特に、環境十全性への要件が強化されていること、また参加国間の同意と相当調整(corresponding adjustment)が求められる点が特徴です。

SBM (Supervisory Body Meeting)は、6条4項メカニズムを運用するために必要な要件とプロセスを開発し監督する任務を負っています。これには、方法論の開発及び承認、活動の登録、第三者検証機関(指定された運営主体、DOE)の認定、そしてレジストリの管理が含まれます。SBMは透明性を重視しており、SBMの会合は機密保持の理由で非公開とされる場合を除き、電子的手段を含め一般に公開され、録画も公開されることになっています。今回紹介するSBM016の会議の様子も全てこちらのYouTubeチャンネルで公開されています。

SBMの効率的な運営と専門的知見の確保のため、SBMの下にはMethodological Expert Panel (MEP)とAccreditation Expert Panelという支援組織が設置されています。特にMEPは、ベースライン設定やリーケージの取り扱いといった方法論的課題に関する技術的な検討を行い、SBMに対して勧告を行う重要な役割を担っています。CMA(パリ協定締約国会合)の一般的なガイダンスとSBMの具体的な指示に基づき、MEPが草案を作成し、それをSBMが審議・採択するというプロセスが一般的です。

SBMにおけるこれまでの議論

(*本節の説明はベースライン設定とリーケージ取り扱いに関するものに限定しています)

6条4項メカニズムにおけるベースライン設定とリーケージに関する方法論は、パリ協定の採択以降、段階的に具体化されてきました。

6条4項方法論の最も基本的な枠組みは、2021年のCMA3(グラスゴー)で採択されたDecision 3/CMA.3の附属書「パリ協定第6条4項に基づき設立されたメカニズムのための規則、モダリティ及び手続」(”Rules, modalities and procedures for the mechanism established by Article 6, paragraph 4, of the Paris Agreement”、以下RMP)によって提供されました。RMPは、6条4項メカニズム全体の法的根拠であり、SBM及びMEPが詳細な基準を策定する上で遵守すべきハイレベルでのルールを定めています。

ベースライン設定とリーケージに関するガイダンス策定が本格的に開始されたのは、2024年2月に開催されたSBM010です。この会合でSBMは2024年の作業計画を承認し、MEPに対してベースラインツール及び標準化ベースラインに関するガイダンスの勧告を作成するよう要請しました。これを受け、MEPはその後複数回の会合を通じてドラフトを開発してきました。MEP003(2024年9月)では、ベースライン設定に関する基準案が最終化され、これについて一般からの意見公募(パブリックインプット)を行うことが合意されました。このタイミングではリーケージに関する基準の作業は継続されました。

しかし、SBM015(2025年2月)ではベースライン設定に関して合意には至りませんでした。特に下方調整 (downward adjustment)とBAU(Business as Usual)以下の確保については、環境十全性とプロジェクトの実行可能性のバランスを取る複雑さが論点となっていました。この点については下の章で詳述します。

最終的にMEP005(おそらくSBM016の直前に開催)において、ベースライン設定基準とリーケージ基準の両方に関するSBMへの最終勧告がまとめられました。これがSBM016での採択の基礎となりました。

過去のSBM・MEP会合の概要 (弊社作成)

ここから、具体的にSBM016で採択された基準の内容を紹介します。

This post is for paid subscribers

Already a paid subscriber? Sign in
© 2025 sustainacraft
Privacy ∙ Terms ∙ Collection notice
Start writingGet the app
Substack is the home for great culture

Share