sustainacraft Newsletter

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Gold Standardのパリ協定整合性に関する新ルール

2025年11月 Methodology Updates (1/2)

Nov 19, 2025
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株式会社sustainacraftのニュースレターです。

Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、Gold Standard (GS) が2025年10月に発表したパリ協定への整合性に関する新ルールとガイダンスについて、その背景、技術的な変更点、そしてプロジェクト開発者が直面する課題について解説します。

お問い合わせはこちらまでお願いいたします。

本記事の執筆者:高畑圭佑(R&Dチームのリード)


はじめに

Gold Standard(GS)は2025年10月06日、自主的炭素スタンダードとして初めて、パリ協定との整合性を確保するための包括的な新ルール、Paris Agreement Alignmentガイダンス (以下、PAA)を発表し、それに対するパブリックコンサルテーションを行いました (2025年11月5日終了)。これは2021年に表明されたコミットメントを具体化するものであり、GSはこの新方針を進化するグローバル市場においてクレジットの長期的な価値と信頼性を維持するために必須であると強調しています。

現在GSはパリ協定との整合に向けた様々な取り組みを進めていますが、今回のパブリックコンサルテーションの対象となったのは主に方法論の厳格化に関するガイダンスです。カバー範囲は多岐に渡りますが、特にベースラインに対する下方修正の導入と、追加性分析における一般慣行分析の新しいツールが発表された点が重要です。これは、部分的には以下のニュースレターで紹介した6条4項の下での方法論ガイドラインと整合するものです。

パリ協定6条4項下でのベースラインとリーケージの計算

パリ協定6条4項下でのベースラインとリーケージの計算

sustainacraft
·
May 27
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今後、各方法論はこれらの新しいツールを参照しつつ、パリ協定への準拠をしたPAA方法論 (PA-Aligned Methodology)として改訂されていきます (参考)。

スケジュールも比較的タイトです。

  • 2026年1月1日 PAA発効:2026年1月1日以降のビンテージ(発行年)を持つすべてのクレジットは、新しいPAA方法論への移行が義務化されます。オフテイク契約などで事前に売買が決定しているものについても、ビンテージが上記日時以降であれば対応が必要です。

  • 2026年6月30日 サンセット・デート:旧ルールに基づく新規プロジェクト申請の最終期限です。ただし、これは2025年12月31日までのビンテージで旧ルールに従ってクレジット発行する場合への対応となります。

今回の発表に至るまで、GSは2021年から段階的に準備を進めてきました。特筆すべきは、今回行われたパブリックコンサルテーションの性質です。GSは、PAAの中核となる整合性要件 (Alignment Requirements)および主要日程について、これらはパリ協定準拠のための不可欠な要素であるため、協議の対象外(not subject to revision)であると明言しています。求められている意見はあくまで文書の読みやすさや運用上の明確さに関するもののみです。これは、GSが市場の合意形成を待つのではなく、トップダウンでパリ協定時代のVCMのあり方を定義し、市場参加者に準拠を求めようとする強い意志の表れと言えます。

またGSは、方法論厳格化以外にも、相当調整の有無に基づくクレジットの分類など、より大きな変更も視野に入れています。これについては今回のパブリックコンサルテーションの対象とはなっていませんが、これが実装されるとプロジェクト開発者とクレジット購入者へのインパクトは非常に大きいものとなりそうです。

以下では、まずこの相当調整に関する話題を紹介し、その後で今回のパブリックコンサルテーションの内容である方法論の厳格化について詳しく説明します。最後に、これらを受けて今後VCM全体がパリ協定との関係の中でどう変化していきうるかを考察します。

今後の計画:相当調整に基づくクレジット分類の導入

GSはA practitioner’s guide: Aligning the Voluntary Carbon Market with the Paris Agreementにおいて、パリ協定準拠に向けた論点や今後のTODOをまとめています。この中で特に重要と考えられるのが、相当調整(Corresponding Adjustments)の有無によるクレジットの分類です。この点は今回のパブリックコンサルテーションのスコープには入っていませんが、仮にこれが実装されるとプロジェクト開発者とクレジット購入者へのインパクトは非常に大きいものとなりそうです。

上記の”2.5 Avoidance of double counting”において、GSはレジストリにおいてクレジットを以下の二種類に分類することに言及しています。

  • Authorized

    • ホスト国政府が承認し、相当調整の適用を約束したクレジット。

    • これが従来の「オフセット」として、企業のネットゼロ目標などに使用可能なクレジットとなる。

  • Not Authorized (or “Mitigation Contribution”)

    • ホスト国政府による承認がなく、相当調整が適用されないクレジット。

    • 削減量はホスト国のNDC達成にカウントされる。企業はこれをオフセットには使用できず、あくまでホスト国の気候変動対策への貢献としてのみ主張できる。

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