株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、この記事では、最近公開され、パブリックコンサルテーションを経たIsometricの新しいIFM(Improved Forest Management)方法論についてご紹介します。
*本記事の執筆者:Nick Lau (Applied Scientist)
1. はじめに
今月初めのニュースレターでは、Isometricが新たに提案したアグロフォレストリー方法論の概要をお伝えしました。今回は、その対となるフレームワークであるIsometric Improved Forest Management (I-IFM) プロトコルを取り上げます。他のIFM方法論と同様、この方法論の対象は、伐採ローテーションの延長、伐採強度の削減、土壌攪乱の最小化といった活動から生じる追加的な炭素貯留を測定・検証することです。
I-IFMのアプローチを特徴づけているのはその2層構造です。中核となる算定要件と十全性要件を定義する共通プロトコル (universal protocol)と、それぞれが特定の管理慣行に焦点を当てた一連の独立したモジュールです。この設計により、方法論の構成要素は独立して進化できると同時に、IFMセクターの全方法論にわたって算定原則の一貫性を維持することが可能になります。これはGold SrandardがSOC方法論で採用している方針と近いといえます (参考)。
共通プロトコルのレベルでは、I-IFMプロトコルはIsometricのより広範な森林ベースの方法論群(植林やアグロフォレストリーのプロトコルを含む)と密接に連携しています。具体的には、ベースラインがプロジェクト提案者ではなくIsometric自身によって動的にモデル化されること、そしてMRVにおいてリモートセンシング、現地測定、全球のバイオマスデータセットを統合して行われる点が共通しています。これらの特徴は、炭素クレジット生成における完全性・透明性と、ユーザーの利便性を両立しようとするIsometricの試みを反映しています。
一方で、独立したモジュールのレベルでは、他のIFM方法論と比較して新規性のある内容となっています。各モジュールは、その管理慣行の実態に応じて、リーケージの算定、耐久性などに関する独自の運用ロジックを定義できます。今回はこのモジュールの第一弾である「小規模農家の土地における伐期延長(Deferred Harvest on Smallholder Lands, DHSL)」を紹介しますが、このモジュールの背景には、小規模で断片化された森林所有地には、従来の画一的な方法論では対応できない、個別の状況に合わせた取り扱いが必要である認識があります。それを解決するため、伐期延長期間を農家ごとに設定したり、リーケージ計算にモデルを用いるなどユニークなアプローチが導入されています。
本記事では、まず、I-IFMの共通要件を解き明かし、その全体構造を理解します。次に、「小規模農家(小規模土地所有者)の土地における伐期延長」モジュール内のユニークな特徴を調べることで、このモジュール設計が実際にどのように機能するかを見ていきます。最後に、I-IFMの特徴を、比較対象となるVerraのVM0045およびACRのNon-federal Forested Land IFM方法論と比較します。
2. 共通IFMプロトコル
まずは独立したモジュール群すべてで用いられる共通IFMプロトコルの内容を見ていきます。
2.1 適用可能性
I-IFMプロトコルは、通常通りの事業(business-as-usual, BAU)シナリオと比較して、管理の改善を通じて測定可能な炭素ストックの増加を実証できる既存の森林地に適用されます。対象となる森林には、追加性(Additionality)が実証され、管理および監視する法的権利が明確に文書化されていることを条件に、天然林と管理林の両方が含まれます。プロジェクトは、以下の3つの中核的な適格性条件を満たす必要があります:
追加性: 管理慣行が、法的または標準的な商業上の義務を超えていること。
生態学的な実行可能性: 森林条件が、持続的なバイオマスの蓄積を可能にすること。
法的コンプライアンス: プロジェクト期間中、所有権および伐採権が確保され、検証可能であること。
なお、規制、保護区(Protected area)の状況、または物理的なアクセスの不能性により、BAU(通常通りの事業)の下では伐採が現実的にあり得ない地域は、特定、マッピングされ、クレジット発行の対象から除外されなければなりません。環境および社会的セーフガードは、プロジェクト活動が生物多様性を維持し、水および土壌資源を保護し、地域コミュニティや先住民の権利に悪影響を及ぼさないことを保証します。プロジェクトは、すべての土地所有者および利害関係者との公平な利益配分メカニズムを実証する必要があります。
2.2 正味CDRの計算と動的ベースライン
I-IFMの算定フレームワークの下では、プロジェクトにもたらされる正味の二酸化炭素除去(Carbon-Dioxide Removal, CDR)量は、各報告期間内の測定された炭素ストック、検証されたベースラインのモデリング、および定量化された排出量から決定されます:
正味CDR = プロジェクトによる除去量 – ベースラインの除去量 – プロジェクト排出量 – リーケージ
この構造は、VerraやACRの方法論など、他のIFM方法論で使用される計算アプローチと同様です。
Isometricが異なるのは、この方程式のベースライン構成要素がどのように生成されるかという点です。デベロッパーが独自のBAUモデルを構築するのを許可する代わりに、ベースラインはレジストリによって”動的ピクセルマッチング・アンサンブル”と呼ばれるアプローチにより生成されます。各プロジェクトピクセルは、生物気候、地形、および管理履歴の類似性によってマッチングされた、同等の森林景観からの複数のコントロール(対照)ピクセルと統計的にペアリングされます。このマッチングにより作成されたアンサンブル(集合体)が作成され、その中での変動を考慮することで不確実性を評価します。認証 (Validation)時、Isometricは追加性を評価するために、コントロールピクセルの過去のデータから事前のベースラインも生成します。そして、検証(Verification)のたびに同じ動的ベースライン手順が再適用され、ベースラインの軌跡が更新されます。
I-IFMに基づく最低耐久性は20年です。すべての除去クレジットはex-post(事後)で発行されます。つまり、CO₂が実証的に除去され、検証された後にのみ発行されることを意味します。


