株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、Isometricが新たにドラフトを公開し、パブリックコメントを募集しているアグロフォレストリー方法論について、同社のReforestation方法論やVerraのARR方法論VM0047と比較しながら、その特徴をご紹介します。
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本記事の執筆者:高畑圭佑(R&Dチームのリード)
Isometricの新しいアグロフォレストリー方法論のドラフト
(出所: A new protocol for Agroforestry, 2025年10月15日アクセス)
Isometricが2025年10月31日(日本時間)までを期限として、新しいアグロフォレストリー方法論のドラフトに対するパブリックコメントを募集しています。アグロフォレストリーは、樹木を農地や牧草地に統合する土地利用システムであり、炭素隔離、生物多様性の向上、土壌保全など多岐にわたる便益をもたらすポテンシャルがあるとして注目されています。
これまでボランタリークレジット市場では、アグロフォレストリーに特化した包括的な方法論はありませんでした。今回のIsometricの方法論(以下、IA)は、農業生産の維持を前提としつつ、炭素除去量を厳格に定量化するための新しい概念を導入しています。またICVCMのCCPやABACUSラベルへの準拠も念頭に設計されており、今後の高品質なアグロフォレストリープロジェクト形成に向けた重要な一歩となりそうです。本稿では、この新しい方法論の主要な特徴を、Isometricの既存のリフォレステーション方法論(以下、IR)およびVerraのARR方法論VM0047と比較しながら解説します。なお、IRやIsometricそのものの特徴については以下のニュースレターで詳しく説明しています。
今回発表されたIAの特徴は、農業生産をプロジェクトの主要な構成要素と位置づけ、その生産量を能動的にリーケージ対策に組み込んでいる点です。また、ダイナミックベースラインの採用やクレジット期間終了後のモニタリングのための具体的な財務計画の提出といった特徴は、IRとともにIsometric方法論全体に共通する厳格化のアプローチを反映しています。
農業生産の維持が前提: プロジェクトエリアの大部分(50%以上)または最低500ヘクタールが、非木材産品(食料、家畜、繊維など)の生産に充てられる必要があります。IRやVM0047が主に劣化した土地や森林再生に焦点を当てるのに対し、IAは「ワーキングランドスケープ(生産活動が行われている土地)」における炭素除去を目指します。
Net Project Productivityによるリーケージ評価: 農業生産がプロジェクトによって意図せず減少した場合、その影響を「Net Project Productivity (NPP)」という指標で定量化し、リーケージとして厳格に計算します。これは、プロジェクト内の生産性向上によってリーケージを相殺するという新しいアプローチです。
長期コミットメントと財務計画の要求 (Isometric共通): クレジット発行期間 (最長40年)終了後も最低40年間のモニタリングを義務付け、長期のプロジェクトコミットメントを要求します。さらに、クレジット発行収入がなくなった後も炭素ストックが維持されるよう、継続的なインセンティブ(支払い構造)を示す財務計画の提出を義務付けている点が大きな特徴です。
以下では、特に適格条件、リーケージ、ベースライン、耐久性、そして伐採の考慮の観点から、IA方法論の特徴をより詳細に見ていきましょう。
適格条件
各方法論が対象とする土地や活動は、その目的を反映して大きく異なります。特に、生態系の多様性やアルベド(太陽光の反射率)といった気候への影響に関する要件に違いが見られます1。
Isometric アグロフォレストリー (IA)
対象: 既存の農地や劣化した土地における樹木被覆の確立または増加を目的とします。活動例としては、シルボパスチャー(樹木放牧)、アリークロッピング(作物の列間に樹木を植える)、果樹園、防風林、河畔緩衝帯などが挙げられます。
前提条件:
農業生産の維持: 農業生産がプロジェクトの主要な構成要素であることが絶対的な条件です。
土地履歴: 過去10年以内に森林破壊や自然生態系からの転換が行われた土地は対象外となります。
生態系の多様性への配慮: プロジェクトの生物多様性を確保するため、作付け面積に応じて最低限植えるべき種の数が定められています(例:50ha以上100ha未満で4種以上、100ha以上で5種以上)。また、用いる種についても要件があります (外来種の不可など)
アルベド: 植林によるアルベドの変化が正味の温暖化効果をもたらす地域でのプロジェクト実施を禁止しています。
Isometric リフォレステーション (IR)
対象: 歴史的に森林であったが、現在は森林ではない「劣化した土地」が対象です。生態系の回復と機能の復元に重点を置いています。
前提条件:
商業林業の回避: 商業的なプランテーション林業のような活動は意図されておらず、皆伐を伴う木材販売は想定されていません。
土地履歴: IAと同様に、過去10年以内に森林破壊が行われた土地は対象外です。
生態系の多様性への配慮: 植栽計画には、少なくとも2つ以上の属から5種以上の種を含めることが求められ、生物多様性の向上を目指します。
アルベド: IAと同様に、アルベドの変化が正味の温暖化効果をもたらす地域は除外されます。
Verra VM0047
対象: ARR(植林、再植林、植生回復)活動全般を広くカバーします。アグロフォレストリーのような活動は、センサスベース・アプローチを用いて定量化されます。これは、1ヘクタールを超える連続した樹木被覆を形成しない活動を対象とし、植栽ユニット(個々の樹木など)をすべて特定・登録(センサス)することを要求するため、比較的小規模なプロジェクトや分散した植栽に適したアプローチです。
前提条件:
土地履歴: センサスベース・アプローチの場合、過去10年間森林でなく、かつ既存の木本バイオマス被覆が10%未満の土地であることなどが条件です。
生態系の多様性への配慮: Isometricの方法論のように、植えるべき種の数を具体的に規定する要件はありません。
アルベド: アルベドに関する明示的な除外規定はありません。
湿地: 有機質土壌や湿地で地下水位の操作を伴うプロジェクトは対象外となります。
なお、対象となるカーボンプールについては、3つの方法論すべてで地上部および地下部の木質バイオマスが主要な対象として含まれています。IAとIRでは、土壌、枯死木、リターは定量化の不確実性から除外されていますが、VM0047では特定の条件下でこれらをオプションとして含めることが可能です。
リーケージ:Net Project Productivityによる算出
リーケージの扱いはおそらくIAの最も特徴的な点です。IAは、アグロフォレストリーの特性を活かした独自のリーケージ管理手法を導入しています。