株式会社sustainacraftのニュースレターです。今回はMonthly Methodology Updatesとして、主に2023年11月に発表されたVCSの方法論に関するニュースを中心にお届けします。
Monthly Methodology Updates
今月は以下の内容をカバーします。
ABACUSラベルの要件に関するパブリックコメント募集 (Verra)
非在来種による単一樹種植林に関する要件へのパブリックコメント募集 (Verra)
REDDプロジェクトにおける管轄域レベルでのベースライン有効期間に対するフィードバック募集 (Verra)
(1) ABACUSラベルの要件に関するパブリックコメント募集 (Verra)
(link)
Verraは11月15日、高品質な植林プロジェクトに対して付与されるラベルであるABACUSラベルの要件についてのパブリックコメントの募集を発表しました。
約一年前に事前パブリックコメントの募集が行われた際には、弊社もコメントを発表しました。以下のニュースレターでも内容を紹介しています。
内容については、前回募集時と重複する部分も多いですが、今回は特に4つの点に注目し、それぞれに対する基本原則、細かい要件、および今後の論点を述べるという構成になっています。以下はその4点と基本原則です:
追加性とベースライン: プロジェクト期間全体を通じて、対照群の炭素ストック変化を追跡するダイナミックパフォーマンスベンチマークを使用しなければならない
リーケージ: プロジェクトまたは周辺の地域における農業生産を維持または強化することによって、リーケージを効果的に排除しなければならない
GHG削減量の計算方法: プロジェクトの定量化は、直接測定された実地調査データと公に報告されたデータおよびモデルに基づかなければならない
永続性: プロジェクトは、反転リスクを減少させるよう明示的に設計され、透明性を高めるために年次で監視され、かつクレジット発行期間後も炭素ストックが維持されるよう設計されなければならない
以下のセクションではこれらについてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
なお、ABACUSラベルは新ARR方法論VM0047 Afforestation, Reforestation, and Revegetation (v1.0)に基づいて実施されるARRプロジェクトを対象としています。VM0047については前回のNewsletterで紹介しました。
ABACUSとVM0047は互いに連携しており、VM0047の要件を満たせばABACUSの要件を部分的に満たせる場合もあります。一方で、VM0047に加えて追加的な要件が設定されている部分もあり、それらの点についてもハイライトします。
なお、以下で紹介する要件は、提案されているものの全てを網羅したものではありません。詳細はレポート本文をご覧ください。
追加性とベースライン
原則:プロジェクト期間全体を通じて、対照群の炭素ストック変化を追跡するダイナミックパフォーマンスベンチマークを使用しなければならない
これは、VM0047に従ってダイナミックベースラインの方法を使用せよ、ということです。
加えて、ABACUSラベルでは以下のことが追加的に求められます。
コントロールプロットとのマッチングに用いられる植生指数の時系列は少なくとも5時点を考慮
VM0047では過去8-10年で最低3時点を考慮
より長い期間を考慮することで、プロジェクト実施者にとって都合のよいプロットを恣意的に選べてしまう可能性を低減する
パフォーマンスベンチマークに加えて投資バリア分析を行い、ファイナンスの観点でも追加性があることを示す。プロジェクト開始時点における期待クレジット量の算出も行う。
VM0047では、投資バリア分析はプロジェクトにクレジット以外の経済的インセンティブがある場合にのみ実施すればよいステップだが、ABACUSラベルではマスト
上記の要件に対して、パブリックコメントでは以下の議論が期待されています。
5時点の時系列を考慮すれば恣意的なプロットの選択(adverse selection)を防ぐのに十分か
投資バリア分析はファイナンスの観点での追加性を検証するのに十分か。また、より厳密な検証を行う場合はどのような方法がありうるか
リーケージ
原則:プロジェクトまたは周辺の地域における農業生産を維持または強化することによって、リーケージを効果的に排除しなければならない
この原則は、基本的にはVM0047のサブモジュールであるVMD0054 Module for Estimating Leakage from ARR Activities, v1.0の内容と同様です。今後、今回のパブリックコメントの結果を基にVMD0054に改訂を加えるとしています。
ここでは以下の2点の達成が主眼に置かれています。
農業生産の場所の置換を最小限に抑える
プロジェクトエリアで削減された農業生産量は100%、どこか別の場所で新たに土地利用を転換して(主に自然林→農地)補償されると想定
従って、周辺地域に緩和エリアを設けて、生産高減少の影響をそこで全て吸収することを目指す
プロジェクトにより減少した農業生産量を補償するために、プロジェクトエリアまたは周辺地域での農業生産性を向上させるために投資をする
プロジェクト地域における既存の土地利用方法が必ずしも最善であるとは限らないため、農業効率の向上や、生産物の変更など、より少ない土地で既存の水準の農業生産を代替することを目指す
これにより、食料生産の安定性に悪影響を与えることを防ぐ
一方で、上記の要件に対する議論としては、特に以下の点が挙げられています。
気候変動対策や食料安全保障の観点では、類似の農作物の代替生産という方法は適切なのか
上記が問題ないとして、どのような代替農作物が適しているのか
GHG削減量の計算方法
原則:プロジェクトの定量化は、直接測定された実地調査データと公に報告されたデータおよびモデルに基づかなければならない
これの意味するところは、炭素貯蓄量は地域的な土地特性や気候に依存して大きく異なるため、一般的に利用可能なデータベースや過去の類似研究を参照するだけでは不十分であり、プロジェクトエリア内で実地調査を行って妥当性を示す必要がある。また、透明性を担保するために判断に必要なデータは全てオープンにする、ということです。
具体的には以下のような要件が求められています。
実地調査データを公開する
透明性、再現性、関連研究の促進のため
ただし、土地所有者のプライバシー保護のため、プロットの正確な地理空間位置は非公開にしてもよい
炭素ストックを定量化する際に使用される全てのアロメトリー式や関連するパラメータを公開し、妥当性を検証する
利用した式やパラメータが妥当でありかつ保守的であることを示す
また、樹種や環境の局所性を考慮した上でのサンプルの代表性や、サンプルサイズの妥当性も検証する
PDDとモニタリングレポートにおいて推定値のバイアスを検証する
推定の過程で発生しうるバイアスの源泉と、そのバイアスを排除するための具体的な取り組みを述べる
バイアスが無いと主張する場合は、そのことを支持する定量的または定性的な指標を示す
上記についての議論として以下が挙げられています。
炭素蓄積量の推定値はアロメトリー式や関連パラメータの値に大きく依存するが、対象としている地域や樹種と厳密にマッチする先行研究の結果を見つけられない場合も多い。その場合にどのように選択の妥当性や保守性を判断すればよいか
起こりうるバイアスを全て特定することをマストとすることは運用上問題はないか
永続性
原則:プロジェクトは反転リスクを減少させるよう明示的に設計され、透明性を高めるために年次で監視され、クレジット発行期間後も炭素ストックが維持されるよう設計されなければならない
本項目は、プロジェクト中およびプロジェクト終了後にも炭素蓄積が期待通りに継続されるよう、プロジェクト設計により細かい要件を追加したものです。
具体的には以下のような要件が求められています。
「生態学的に適切」な植林を行う
「生態学的に適切」とは、気候、風土、地形が植生に適しており、(灌漑など)人間の介入がなくてもシステムが自律的に持続できること
上記を様々なデータ1や数理モデリングにより実証する
単一樹種植林は認めない
全体で複数樹種植林であっても、単一樹種エリアが連続して1ha以上存在しないようにする
理由は、単一樹種植林は商業目的である場合が多いため、ファイナンス的な追加性がなく、かつ(伐採が前提なので)炭素貯留の耐久性もない可能性があるため。また、複数樹種の植林と比較して頑健でないため (例えば、病虫害に弱い)
自然災害による炭素蓄積の損失をモニタリングするため、バイオマス量を示すマップを毎年公開する(空間解像度 < 1ha)
プロジェクトのバリデーション時に、クレジット創出期間終了後の炭素蓄積の担保の方法を明示する
クレジット創出期間は最大でも30年
以上に対して、以下の議論が期待されています。
上述の「生態学的に適切」の定義は適当か
クレジット創出期間後の永続性担保の方法を検証するための証拠として何が適切か
今後検討される項目
ここまでの項目は、修正が入るにせよ、何かしらの形で要件に反映されることが決定しているものです。一方で、レポートでは今後要件に入る可能性がある項目に関しても言及しています。興味深い点も多いため、これらも紹介します。
規制の影響を考慮した追加性 (regulatory additionality):ダイナミックベンチマークの方法が適切に運用されれば、原理的には規制の変化などプロジェクト以外の効果もベースラインに反映できる。これをもって規制変化などを考慮したと考えてよいか
→ この点については以下のNewsletterもご覧下さい生物物理学的な影響 (biophysical impacts):植林は、地表面のアルベド、エネルギー分配、乱流フラックスなど様々な物理的変化を引き起こす。それらが温暖化効果に与える影響は無視できないほど大きい可能性があることが近年の研究で指摘されており、適切な考慮が必要
→この点については、前回のNewsletterもご覧下さい効果的な永続性 (effective permanence):永続性を担保するために既存のバッファープールの計算方法を改善
逆選抜 (adverse selection):ベースライン推定時のコントロールプロットのマッチング時に、共変量の選び方によっては恣意的にベースラインを低く推定できてしまう可能性がある。それを避けるための要件の改良が必要
→ この点については、以下のNewsletterで紹介したRenosterによる批判が参考になるかもしれません(Section 1)非破壊アロメトリー式 (non-destructive allometric equations):アロメトリー式は破壊サンプルに基づいて構築されるケースが多いが、その場合、気候、地位、林齢など様々な点でサンプルの代表性が問題になる可能性がある。よって、非破壊的方法によってアロメトリー式をプロジェクトサイトで検証したり、プロジェクトごとに式を作る方法があれば望ましい