株式会社sustainacraftのニュースレターです。今回はMonthly Methodology Updateとして、主に2023年6月に発表されたVCSの方法論の改訂に関するトピックを中心にお届けします。
今月は方法論に関して大きなニュースはないですが、REDD、稲作メタン、IFM、ブルーカーボン、クックストーブ、バイオ炭など、多くの活動タイプに関する改訂が発表されました。
主に稲作メタンのところで述べましたが、厳密さという観点でJクレジット制度とのギャップが見られます。ボランタリーのクレジットはこの数年で市場が拡大した中で、品質に関する議論が多くありました。結果として、より保守的な方向での改訂が多く発表されています。
一方でJクレジットは、今は拡大していくことが重要な局面ですので、なるべくシンプルなやり方でのプロジェクト創出を重視した方法論になっていると考えられますが、海外の動向も見据え、かつCORSIAのような国際規格での適格クレジットを目指すのであれば、早い段階で大規模な方法論改訂が入ることも想定しておく必要があるかもしれません。
また、オーストラリアのACCUに関する批判、及び、それに対する反応を見ていると、「国主導の制度だから品質は意識する必要がない」、ということはなさそうです1。
Monthly Methodology Update
今月は以下の内容をカバーします。
稲作メタンに関する方法論の改訂に向けたRFP(Verra)
IFM(森林管理)方法論のレビューを開始(Verra)
ブルーカーボンに関する方法論(VM0033)の改訂(Verra)
クックストーブの改訂版方法論を発表(Verra)
新しいREDD手法の最終化に向けて重要なマイルストーンに到達(Verra)
(1) 稲作メタンに関する方法論の改訂に向けたRFP(Verra)
(link)
以前、こちらの記事にてVerraが用いていたCDMのAMS-III.AU(Methane emission reduction by adjusted water management practice in rice cultivation: 稲作における水管理方法の変更によるメタン排出削減)の無効化を紹介しました。既存のこの方法論では、基本的には中干期間を延長することによるメタン発生量が抑制される効果を想定しているものでしたが、こうしたプロジェクト活動が、窒素排出と土壌有機炭素損失の増加に寄与していることを示す証拠もあることなどが無効化の背景でした。
今回出されたRFPでは、既存のALM(農地管理)方法論であるVM0042に含められる形での改訂が想定されています。こちらで紹介したように、VM0042は統計的な記述が目立つ、VMD0053をモジュールとして参照しておりますが、このRFPでも、以下の通りメタンと二酸化窒素および土壌炭素量の変化のモデルをVMD0053と整合する形で記述することが求められており、より厳密な形での改訂が予想されます。
Guidelines for using models and testing their performance to estimate CH4 and N2O emissions and SOC stock changes aligned with existing guidance in the VMD0053, v2.0
さらに、VM0042では、VVB(第三者検証機関)が、さらにこの領域における専門家にモデリング部分の検証を依頼するプロセスが想定しており、最新の科学に整合するプロセスの構築が進められているところです。
「水稲栽培による中干し期間の延長」は今年の3月にJクレジットでも新たな方法論として承認されたので、日本でも注目が集まっています。Jクレジット自体、CORSIA適格クレジットに向けた申請も進めている中で、稲作メタンの方法論についても、このような海外での方法論改訂については注視していく必要があります。
特に、今回の改訂は基本的にはプロジェクトの効果がより保守的に計算される方向での改訂ですので、Jクレジットにおいても同様の考え方を取り入れるかどうか、海外からどのようにみられるか、ということは、水田メタンのプロジェクトから創出されるクレジットを使う企業にとっても理解しておくことは重要と考えます。