株式会社sustainacraftのニュースレターです。償却量は先月ほどではないものの、引き続き高水準となっており、その中でも特徴的な償却を行っている企業の活動をお伝えします。規制の動向の面では、計画策定や情報開示の面でSBTiや米国証券取引委員会から出された発表についてお伝えします。
Monthly VCM Update
今月は以下の内容を紹介します。
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向
Issuance / Retirement分析
プロジェクトパイプライン分析
B. 海外の主要規制の動向
SBTi が、Beyond Value Chain Mitigation (バリューチェーンを超えた緩和)に関するレポートを発表
米国証券取引委員会(SEC)が、投資家向け気候関連開示を強化及び標準化する規則案を採択
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向 (Verra)
参考: 昨年末でのセミナーで用いたボランタリークレジットの2023年末までの市場動向レポートを公開しています(英語版、日本語版)。
1) Issuance / Retirement分析
(2024.4.22追記: 訂正とお詫び)以下の月次の集計に間違いがあり、修正いたしました。
2024年2月はVerra、GS、CAR(Climate Action Reserve)、ACR(American Carbon Registry) のレジストリーにおけるボランタリーカーボンクレジットは18.46百万ユニットが新たに発行され、17.84百万ユニットがリタイアされました。それぞれ前年同月比-24%、-16%となっています。
AFOLU(Agriculture Forestry and Other Land Use)プロジェクトに限ると1.66百万ユニットが発行され、9.93百万ユニットがリタイアされています。それぞれ前年同月比-77%、+31%となっています。
1月に引き続き、Verraの新規発行量は大幅に減少しています。2024年2月に償却されたVerraのプロジェクトの一覧(AFOLUセクターのみ)は以下の通りです。上位20件のプロジェクトでリタイアメント全体の9割を占めています。国別ではCongoが最大(26.8%)で、その後をZambia(14%)、Indonesia(10%)、Brazil(9%)、Tanzania(8%)が続いています。最も多くのクレジットが償却されたThe Mai Ndombe REDD+プロジェクトは大部分がイタリアの石油企業であるEniによって償却されています。
Verra AFOLUセクターのカーボンクレジットを償却した企業のTOP 20社は以下の通りです。2024年2月はEniによる償却が最も大きくなりました。第3位にいるPlenitudeは再生可能エネルギーを取扱うEniの系列企業であり、第6位にもEniの顧客がオフセットに利用したことが記されているなど、積極的な償却方針が伺えます。また、オーストラリアの石油会社であるWoodsideが多くのクレジットを償却しています。
Eniは自社のGHG排出の削減目標として、2018年対比で2025年に-65%(Scope1+2)、2030年に-35%(Scope1+2+3)、2040年に-80%(Scope1+2)、-50%(Scope1+2+3)、2050年でScope3まで含めたネットゼロという目標設定を発表しています。この中で、2030、2040、2050年でそれぞれ15M, 20M, <25MtCO2のカーボンオフセットを計画しています。(Source)
これまでのカーボンクレジットの償却について(下図はVerra及びGold Standard)ザンビア、タンザニア、コンゴのREDD案件のクレジットが大半となっています。2024年2月にはこれまで最大規模となる3.5Mの償却をしており、その大半はコンゴのREDD案件によるものです。
Eniは、クレジットを調達しているだけでなく、以下の通りベトナムやルワンダでREDD+やクックストーブ案件の開発への関与も発表しています。
2022年4月: ベトナムのクアンチ省政府との間で、同地域におけるREDD+(森林減少・劣化による排出の削減)イニシアチブおよび炭素クレジット生成のための自然気候ソリューション(NCS)の潜在的な機会を評価するための覚書(MoU)を締結
2023年12月: ルワンダでの家庭用クックストーブの配布を開始。今後10年間で50万台の改良型調理用コンロを供給・監視し、CO2排出量を削減し、調理中の健康状態を改善することを目標としている。
一方でEniを始めとする石油会社に対しては、例えば以下に示すナイジェリアデルタ地域など、これまでの石油開発による環境破壊に対する批判が見られます。
1930年代からシェルが探鉱開始し、その後エニ社を含め複数の石油メジャーがオペレーションを開始。
2023年5月: シェル、エニ、シェブロン、トタル、エクソンモービルを筆頭とする石油・ガス会社は、過去50年間でナイジェリアのバヤルサ州に11万バレルの石油を流出させた、とする新たな報告書が発表された。
2023年9月:ナイジェリアにおける陸上石油・ガスの探鉱・生産および発電に注力するエニ100%出資の子会社であるNAOC Ltd.をナイジェリア企業のOando PLCに売却
同地域では今月、イギリスのSerendib Capitalによる、マングローブと海草藻場を回復させるための30年間の契約締結が発表されました(Source)。 25万ヘクタールの森林伐採の回避と2万ヘクタールの再植林によって、毎年約500万トンの炭素を吸収することが期待されています。このように自社のオペレーションが影響を与えた可能性のある場所でのカーボンプロジェクトに対するファイナンスという観点で、石油メジャーがオフテイカーになる可能性も本記事では示唆されています。
2024年2月の償却が多かったオーストラリアの石油会社であるWoodsideの 償却の内訳は以下の通り、2023年以降インドネシア、韓国、中国、インドなどのオーストラリア以外の地域のプロジェクトから創出されたクレジットを償却しています(ここでもVerra及びGold Standardのみを対象としており、ACCUは含めていません)。割合の大きいインドネシアはShellなども償却しているKatinganプロジェクト(VCS-1477)のクレジットが中心となっています。
Woodsideは2023年のサステナビリティレポートにおいて2030年にScope1,2を30%削減、2050年にネットゼロの達成の願望を掲げています。削減計画には2030年まではインターナルカーボンプライスである$80/t-CO2e以下のコストで実施できる削減計画とオフセットを併用、2040年以降は上記にCCUなどを含む$80/t-CO2e以上のプロジェクトを加えて削減を進める計画としており、2024年から2030年にかけての年間100万t-CO2e超クレジットを調達する計画です。クレジットの重要性は、排出量の変動、削減計画の遅れや炭素除去技術のコスト効率が十分に改善されないリスクに対するヘッジ手段とされています。また、カーボンクレジットの運用能力と調達ポートフォリオを構築することで、規制上の炭素価格上昇リスクヘッジを可能とするとしています。
Woodsideは2018年からカーボンクレジットビジネスを開始し、累計$150Mのカーボンクレジットに投資、うち3分の1は自社単独のプロジェクトと開示しています。足元のポートフォリオは20M t-CO2e相当の規模、平均的な供給コストは$20/t以下となっているなど、カーボンプロジェクトへの投資にも積極的な姿勢がうかがえます。プロジェクトディベロプメントの比率を高めることで取得コストと品質の管理についても社内ノウハウの積み上げが貢献しているとされています。
取得しているクレジットはオーストラリアの国内クレジットであるACCUsが58%、Verraが40%で構成されています。オーストラリア国内はACCUsを、その他の地域ではボランタリークレジットを取得しています。
足元では、回避・削減系クレジットが大部分とされていますが、今後は吸収系に力を入れていき、ポートフォリオの50%をNbSで構成する方針であるなど、NbSへの取り組みも積極化する方針にあります。
当該レポートの発行前には一部の気候関連団体から、2025年から2030年の削減目標におけるクレジット依存度が高いこと、Scope 3に対する言及がないことに対して批判が上がり、今回のレポートはその批判に答えるタイミングで発行されている背景にも留意が必要です。Woodsideのレポートにおいては一部の批判についてリスクを認識している一方で、サプライチェーン内での削減・回避の重要性を強調し、クレジットの利用については、ICVCM、CCPI、Oxford Principalsなどの基準に準拠しつつ品質に対する目利き重視し、クレジットポートフォリオの分散によりリスクをマネジメントする方針としています。また、同社の株主総会においても2022年にはClimate Reportの内容について、株主の49%の反対票が入り、2023年には不十分な気候対策を理由に一部役員の再選に対する反対が強まるなど、株主からの気候対策への牽制の強さも伺えます。
2) プロジェクトパイプライン分析
以下に、プロジェクトサブタイプごとの月次でのパイプライン動向を表示しています。上段が件数、下段が年間ER(Emission Reduction or Removals)ベースです。横軸はListing Dateをベースにしています1