株式会社sustainacraftの初回Newsletterをお送りします。このNewsletterでは、隔週から月1回程度の頻度でNature-based Solution(NbS)に関する日本語での情報発信をしていく予定です。
2022年に入ってからだけでも、NbSに関して、多くの重要なガイダンスが発表されています。この第1回のNewsletterでは、そのうちのいくつかをピックアップして紹介します。
PickUp Section
Science Based TargetsのFLAGセクター向けガイダンス
(出所, 2022年1月)
パリ協定が求める水準と整合する目標設定のイニシアティブとして、科学に基づく目標設定(Science Based Targets; 以下SBT)に参加する民間企業は年々増加しています。
FLAGとはforest, land and agricultureのセクターを指しており、今回SBTのFLAGセクター向けガイダンスのドラフトが2022年1月に公開されました。
FLAGセクターは学術的にはAFOLU(agriculture, forest, and other land use)とも呼ばれますが、全世界の人為的な温室効果ガスの年間排出量500億トン(CO2換算)のうち約1/4を占めます。
このガイダンスでは、どのような企業がFLAGのSBTを設定するべきなのか、そして時間軸でいつまでに何をすべきなのかということが記されています。
ここで重要なのは、FLAG SBTsの位置付けで、1章のIntroductionの“1.3 How do FLAG SBTs differ from non-FLAG SBTs?”の中に、以下の文言があります。
”It is important to note that because FLAG SBTs are separate from non-FLAG SBTs, FLAG abatement cannot be used to meet non-FLAG abatement targets (e.g., emission reductions from agricultural activities in a company’s supply chain cannot be used to meet facility or office emission reduction targets). That is, companies cannot account for biogenic removals in their value chains to meet non-FLAG targets. Biogenic removals may be accounted for to meet FLAG targets.”
このドラフトでは、あくまで事業活動として、工業セクターのGHG排出をFLAGセクターでの削減量で相殺することはできない、ということが書かれており、明確にカーボンクレジットの扱いがどうなるかは書かれていません。
しかし、例えばカーボンニュートラルLNGは森林クレジットでオフセットされていますが、このガイダンスに従うと、SBTの文脈では認められなくなる、という可能性は考えられます。
クレジットでのオフセットについては、各社様々な考え方があると思いますが、ここではUniliverのケースを最後に引用します。
(次のceresのレポートから引用)
Unilever notes that it will focus on reducing emissions this decade, not on offsetting. However, the company is also creating a €1 billion climate and nature fund to invest in NCS projects. While some of those NCS projects will generate credits for offsetting emissions in the future, the company does not know to what extent it will need to use carbon credits to neutralize residual emissions as it does not yet know to what extent it will reduce emissions by 2039.
Ceresの"Evaluating the Use of Carbon Credits"
(出所, 2022年3月)
セリーズ(Ceres)は米国に本部を持つNPOです。
このレポートは、金融機関・投資家に対して、カーボンクレジットを活用している企業をどのようにアセスメントするのか、という文脈でのガイダンスです。
以下のように、金融機関に対し、事業会社がカーボンクレジットでオフセットをしている場合には、どのようなプロジェクトなのか、それらが(炭素貯留に加え、生物多様性や地域での雇用創出など)社会的、環境的な観点で追加的な認証も得ているのか、ということを確かめることが推奨されています。
Recommendations for financial institutions to engage companies on high quality carbon credits
To ensure that carbon projects provide social and environmental benefits in addition to credible climate change mitigation, investors should ask companies to disclose
The GHG crediting programs, suppliers, and projects from which they source carbon credits
Whether their carbon credits have achieved additional certification from a social and environmental standard
この1年だけでも、企業がどのようにカーボンクレジットを活用するのかに関するガイダンスを複数のイニシアティブが発表していますが、このレポートでは主要なものがリンク付きで整理されています。
例えば、Carbon Credit Quality Initiative(CCQI)は、永続性やネットゼロへの遷移など複数の観点で、自然ベース・工業ベースのカーボンクレジットについて幅広くリスクスコアを提供しています。
以下はceresのレポートのFigure1の抜粋ですが、CCQIのレポートでは、例えば新規植林や再植林は「永続性」の観点では重大なリスクとされており、一方で、化石燃料発電所でのCCSは「ネットゼロへの遷移」という観点では5段階中2という低評価になっています。
Spatial Finance: Challenges and Opportunities in a Changing World
最後に2020年のレポートを紹介します。
つい最近(2022年3月)、Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)のプロトタイプ(ベータ版)が発表されました。
その日本語まとめは各所から出ているので、ここではTNFDと関係する話としてこのレポートを紹介します。
世界銀行とWWFが書いたレポートですが、TNFDで強調されている「場所に紐づくデータ」の重要性と、そのデータ提供を誰が担っていくのか、ということについて特に書かれており、TNFDについても複数回言及されています。
金融業界において、ESGにおけるE(Environment)が未開であるという課題認識のもとで、Spatial Financeの重要性、及び、その中でキーとなるデータと、それらのデータを持つキーとなる機関について述べられています。
Spatial Financeについては以下のように書かれています。
Spatial finance is a geospatial-driven approach designed to provide ESG relevant insights into a specific commercial asset, a company, a parent company, a portfolio or national level scorings.
SPATIAL FINANCE -an emerging field, which works by defining the location of a company’s physical assets and their suppliers’ assets, and then comparing those assets against other datasets (observational data) to providing independent insights (often climate and environmental) into the performance of assets, companies, and even regions or states for use within the financial sector.
ここで、Asset DataとObservational Dataの分類は以下の通りです。
Asset data is the ownership information (e.g. company name) and the geospatial information that defines the location of a commercial asset, i.e. real estate, a field, a mine, a factory, a powerline.
Observational data is classified as any data used to compare against asset data to provide insights.
Asset Dataの例として、World Resource Institute(WRI)は全世界の発電所のデータを公開しています。
Observational Dataとしては、森林減少や気候変動の情報が挙げられています。
Global Forest Watchでは、森林被覆や森林減少などのObservational Dataと、パーム油製造所などのAsset Dataを重ねて分析できるようになっています。
Spatial Financeでは5つの層に分類され、それぞれどのような情報源からどのようなデータがとられているのかが紹介されています。
上述の整理のもとで、以下の課題がまとめられています。
1. Lack of Asset Data
2. Improving Tier 3 Climate and Environmental Observational Data
3. Tracking Parent Company and Company Trees
4. Benchmarking Scoring Methodologies
5. Supply Chain Asset Assessment
6. Complexities of Tier 4 Data
これらを解決していくために、以下の必要性が提言されています。
気候や環境関連のデータの専門家と、金融セクターとの間での対話を通じてニーズを見極め、データソリューションを継続的に開発する
環境NPOは、気候・環境データの主要な保有者として、この分野に関与し、最適なデータが利用可能で、空間ファイナンスに関する確実な洞察を提供するために正しく適用されるようにする責任がある
このような気候・環境データのポートフォリオは、グローバルな公共財(public good)となるべきである
News from sustainacraft
● Science Based Targets Network Corporate Engagement Programに加入しました。
現在、当社ではSBT for Natureのガイダンスや、前述のTNFDのプロトタイプに関する検証パートナー(金融機関及び事業会社)を募集しています。
事業会社様からは、拠点の情報やサプライチェーンの情報を提供いただき、IBATなどの情報を重ね合わせた分析を行い、上記のガイダンス、プロトタイプに関する論点整理及び運営機関へのフィードバック提供を行います。
興味のある方はお気軽にお問い合わせください。
● Orange Fab Asiaに採択されました。
Orange Fab Asiaは、フランスの通信事業者Orangeが運営する、アジアを拠点にグローバル展開を目指すスタートアップを支援するアクセラレータープログラムです。
Closing remarks
サプライチェーンの分析と、上から見るリモートセンシング2、の2つがサステナビリティにおける重要な技術要素であるということは、当社を創業する際に強く感じていたことでした。TNFDで強調されている場所に紐づく情報の重要性や、Spatial Financeという新たなコンセプトは、その感覚と合うものになっています。
また、2021年の11月にフランス政府が出したブラジルの大豆調達に関わる森林減少のリスク分析ツールはまさに上記のSpatial Financeで提唱されていることが具現化されています。
先日、ブラジルの大規模な大豆生産事業者のサステナビリティ担当者と話していた際に、「今後カーボンフリーではない大豆はあり得ない」と断言していたことが印象に残っています。
以上、sustainacraftの初回Newsletterでした。このNewsletterでは、隔週から月1回程度の頻度でNbSに関する日本語での情報発信をしていく予定です。
当社の会社概要資料はこちらで公開しておりますので、ご参照ください。
Disclaimers:
This newsletter is not financial advice. So do your own research and due diligence.
“World Bank; WWF. 2020. Spatial Finance : Challenges and Opportunities in a Changing World. Equitable Growth, Finance and Institutions Insight;. World Bank, Washington, DC. © World Bank. https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/34894 License: CC BY 3.0 IGO.”
リモートセンシングとIoTというのも明確な違いはないように最近は感じます。2014年のSIGGRAPHで発表された研究では、音が鳴っている室内に置かれたポテトチップスの袋を室外からハイスピードカメラで撮影すると、その振動から室内での音声を再現できる、という結果が報告されています。これはリモートセンシング的でもあり、IoT的でもある興味深いアプローチです。