株式会社sustainacraftのニュースレターです。
Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。本記事では、VerraのWetlands Restoration and Conservationプロジェクトのための海面上昇リスク評価に関する新しいガイダンスを説明します。
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はじめに
背景
Verraは最近、Guidance on Sea-Level Rise Risk Assessment for Wetland Restoration and Conservation Projectsという文書を公開しました1。この文書は、Verraの農業・林業・その他土地利用(AFOLU)非永続性リスクツール(NPRT: Non-Permanence Risk Tool)における海面上昇リスク計算セクションを補足するものとなっています。適用対象は、リスク評価時に潮間帯に部分的または完全に位置するプロジェクトです。
AFOLUセクター内のプロジェクトにおいて、重大な懸念事項の一つは非永続性、つまり貯留された炭素が時間とともに大気中に再放出されるリスクです。これに対処するため、VerraはAFOLU NPRTを開発しました。このツールは、プロジェクトがレジストリレベルで共有されたバッファープールに拠出しなければならないクレジットの量を設定するために使用されます。このツールによって認識される反転リスクのカテゴリーの一つは自然災害リスクであり、これには火災、異常気象、害虫および病気などの事象が含まれます。
2023年10月、VerraはAFOLU NPRTを更新し、自然災害リスクセクションに海面上昇による反転リスクを明示的に含めました。沿岸域は、浸水や侵食といった海面上昇の影響にさらされており、これらの生態系内に貯留された炭素を直接的に危険にさらす可能性があります。海面上昇によるリスクは、将来の海面上昇の影響にさらされる可能性のある沿岸地域で行われるプロジェクトの全体的なリスク計算に含めなければなりません。
上記の更新で一応海面上昇リスクが考慮されるようになったものの、使い方に関する具体的なガイダンスが不足していました。それを補うのが今回発表されたガイダンスとなります。この新たなガイダンスの使用は任意であり、既存のスコアリングシステムを変更するものではありません。プロジェクト開発者に対し、プロジェクトの永続性に対する海面上昇のリスクへの注意を促しつつ、より保守的なスコア割り当てやデジタルツールの使用を促進するためのガイダンスという位置づけとなっています。
したがって、今回の発表はあまり大きな変更ではありませんが、これまで本ニュースレターではAFOLU NPRTを深く取り扱ったことがなかったため、NPRTの考え方の紹介という意味合いも込めて、以下では既存のNPRTの考え方と今回追加されたガイダンスをそれぞれ紹介できればと思います。
既存のAFOLU NPRTでのリスクスコア計算方法
AFOLU NPRTでは、海面上昇のリスクスコアは、リスクの「影響度("impact")」とリスクの「重要度("significance")」を組み合わせた計算システムを使用して割り当てられます。以下ではまず、AFOLU NPRT v4.2に従って「影響度」と「重要度」の要素がどのようにスコアリングされるかを説明し、その後、適応策によって全体的な海面上昇リスクスコアをどのように削減できるかについて説明します。
全体的なスコアの計算
AFOLU NPRT v4.2では、海面上昇の「影響度」と「重要度」のスコアを組み合わせて、全体的な海面上昇リスクスコアが割り当てられます(表1)。適応策を考慮した後の最終的な海面上昇リスクスコアは、自然災害リスクカテゴリー全体の合計スコアに加算されます。合計スコアは、生成された総クレジットのうち、バッファープールに拠出しなければならない割合に直接対応します (例えば、最終的なリスクスコアが10ポイントだったら、創出されるクレジット量の10%をバッファープールに拠出することを意味します)。