株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションA(市場動向編)です。
«VCM Updatesの構成»
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向 ← 本記事の対象
クレジット発行・償却・投資動向分析
プロジェクトパイプライン分析
B. 海外の主要規制の動向
発行・償却の動向としては、「償却」は依然としてVerraのREDD+案件が大半を占めていますが、一方で「発行」については、Gold Standardの割合が増えてきています。自然由来の案件の発行についても、北米やメキシコのCAR IFM案件等からの発行量が増えてきており、いわゆる「除去系」と分類されるクレジットが市場に多く出てくる傾向が見られます。さらに、「投資」の動向としては、ハイテク産業に続き、エネルギー業界や航空業界からも森林再生などの案件に対する大型の投資が発表されています。
カーボンクレジットに関して、償却・発行・投資、これら3つの取引を並べた場合、使う側の企業にとっては、「償却」は過去の調達、「発行」は現在(直近)の調達、「投資」は将来に向けた調達を示すものとなります。投資の兆しがなければプロジェクトはファイナンスを実現できませんので、そもそもクレジットは発行されません。すでに除去クレジットの発行が増えてきているというのは、それなりの投資がすでに回り始めているということが言えます(特に初期のファイナンスが必須である植林系の案件について)。
先月(2024年8月)のクレジット償却企業のユースケースとして、EY(及びコンサルティング業界全般の動向)、SkyRiver(カリフォルニア州のカジノリゾート)、パリ2024オリンピックの3つのケースを紹介しています。
コンサルティング業界は、除去系のクレジット調達を強化しており、また、VCMIが発行する買い手向けのCarbon Integrity Platinum Claimを複数の企業が取得しています。VCMIのScope 3に関する新たな主張ラベルについては、今月のニュースレター(VCM Section B)にて紹介していますので、ご参照ください。
SkyRiverは、米国のNEPA(国家環境政策法)に基づいた緩和としてクレジットが用いられており、自主的なクレジット利用とは毛色が異なるユースケースです。
パリ2024オリンピックは、その環境主張について、「カーボンニュートラル」という用語を(途中から)使わなくするなど、炭素排出という観点でも注目された大会でした。このトピックについては、8/9にセミナーを実施していますので、興味のある方はアーカイブ配信の登録をこちらからお願いします。
A. Voluntary Carbon Creditの市場動向 (Verra)
A-1: クレジット発行・償却動向
- 分析対象レジストリー: Verra、GS(Gold Standard)、CAR(Climate Action Reserve)、ACR(American Carbon Registry)
- 対象期間: 2024年8月
- 留意事項: 償却した企業について、レジストリーに対して実名での登録は義務付けらておらず、正確性は保証できない旨ご了承ください。また、レジストリーへの反映には遅れがありますので、今後も本対象期間中について案件の増減やステータス変更の可能性があることにご留意ください。
本対象期間の発行・償却実績は以下のとおりです(括弧内は前年同月比)。発行量については、VCSの割合がかなり小さくなっており、全体ではGold Standard(GS)が増加、NbSではACR, CARのIFM案件からの発行量が増えています。
発行実績: 16.90百万(-2%)、うち自然由来 4.03百万(+10%)
償却実績: 10.22百万(+80%)、うち自然由来 3.63百万(+84%)
<発行された案件リスト>
以下は、本対象期間にクレジットが発行されたプロジェクトの上位10件です。
<償却された案件リスト>
本対象期間に最も多く償却されたトップ10の自然由来プロジェクトの一覧は以下の通りです。
<自然由来プロジェクトへの投資動向>
8月には、自然由来のカーボンクレジット創出案件への投資に関して以下2つが報じられました。本セクションでは、自然再生やREDD+への投資のみを取り上げています。CCSなどその他のプロジェクトは含まれていません。
最初の投資は、オーストラリアの企業BHP(鉱業会社)、Rio Tinto(鉱業会社)、Qantas(航空会社)が、Silva Capitalのカーボンファンドに8000万豪ドル(5000万米ドルごろ)を投資するというものです。このファンドは、土地の再森林化に焦点を当てています[1]。Silva Capitalは、Roc PartnersとC6 Investment Managementの共同事業で、250百万豪ドルの調達を目指しており、すでにコミットされた8000万豪ドルを含んでいます。これは、オーストラリアのカーボンクレジット単位(ACCUs)を生成・管理するためのものです[2]。彼らの計画は、オーストラリアの農地を取得またはリースし、持続可能な農業と土地管理を促進するカーボン隔離プロジェクトを実施することで、地域コミュニティの支援や生物多様性の向上も含まれています[3]。
二つ目の投資では、TotalEnergiesがアメリカの10州にわたる20のIFMプロジェクトに1億米ドルをコミットしています[4]。これは、Aurora Sustainable LandsとAnew Climateとの協力によるもので、後者は6月のニュースレターでMicrosoftの取引の文脈で既に言及しています。プロジェクトは、木材伐採の削減、水質と土壌の改善、そして生物多様性の保護に焦点を当てます。TotalEnergiesは、排出回避と削減を優先した後、残りのスコープ1および2の排出量の一部を自主的に相殺するために、2030年以降にカーボンクレジットを償却する計画です。
<償却企業リスト>
対象期間中に自然由来プロジェクトのクレジットを償却した上位10社は以下の通りです。EYは本ニュースレターで取り上げられています。また、Sky River Casinoとパリ2024オリンピックも簡単に言及されています。なお、PetroChinaは8月のニュースレターで既に取り上げられています。
出典
[1] : https://www.reuters.com/sustainability/bhp-rio-tinto-qantas-invest-53-mln-australian-carbon-credit-fund-2024-08-12/
[2] : https://www.agriinvestor.com/roc-partners-jv-targets-a250-million-for-carbon-credit-fund/
[3] : https://silvacapital.com.au/faqs/
[4] : https://totalenergies.com/news/press-releases/united-states-totalenergies-invests-sustainable-forestry-operations-preserve
企業ケーススタディ
EYについて
(以下、主な出典は[1]をご参照ください。)
EY(正式名称はErnst & Young)は、イギリスに本社を置くコンサルティング会社です。 2022年に、EYは2021年にカーボンネガティブを達成したことを発表し、2019年比で2025年までにスコープ1、2、3の排出量を40%削減し、ネットゼロを目指すことを表明しました。この目標の中で、EYはスコープ1と2の排出量を93%、スコープ3の排出量を32%削減することを約束しています[1]。