株式会社sustainacraftのニュースレターです。Methodology Updatesは、炭素・生物多様性クレジットの方法論を扱うシリーズです。
本記事では、二酸化炭素除去に特化し、高度にデジタル化されたカーボンスタンダードでありレジストリである、Isometricについて紹介します。
今月のVCM Updateにて紹介しましたが、ボランタリー炭素クレジット市場において、Verraが現時点でも大きなシェアを有していますが、発行量ベースでは2021年からの4年間でそのシェアは半減しました。大きな要因は、REDD+の大規模な方法論改訂による発行の一時的な減少ですが、その他にも、近年のレピュテーションリスクの考慮や、方法論が厳格になりすぎるといった要因も影響していると考えられます。これら以外に、プロジェクト開発者が炭素クレジットのスタンダード/レジストリーを選択する一つの観点として、クレジット発行に関わる「手続きの簡便さ」と「必要な期間」が挙げられます。
プロジェクト開発者にとって、クレジット発行までの期間が長いことは死活問題です。一般的なPay on delivery(引渡し同時払い)でのオフテイク契約においては、オフテイク契約が締結されているとしても、クレジットを契約者に届けない限り入金されないからです。
Verraでは、リソース不足やデジタル化が進んでいないことから、クレジット発行までの期間が長く、クレジットが出てきた時にはすでにビンテージ(排出削減・吸収が実際に起きてからの年数)が3年ということも珍しくありません。このような状況の中で、本記事で紹介するIsometricのような、高度にデジタル化され、クレジット発行までのリードタイムの短い新興レジストリーへ移行する動きが出てきています。
デジタル化の進展に関する市場動向
炭素スタンダードとレジストリへのデジタル化の導入は、プロジェクトの透明性を高め、モニタリングや検証の効率を向上させると同時に、クレジット発行までの時間を短縮する可能性を秘めています。この1年間で、デジタルMRVの開発と活用が急速に進んできました(このテーマは2024年10月のニュースレターでも取り上げました)。
さらに、透明性と効率性を一層向上させるため、レジストリ自体のデジタル化も進んでいます。たとえば、Verraは今年、デジタルプロジェクト提出ツールやデジタル化されたプロジェクトレビュー報告書をリリースしました。主要な基準がデジタルMRVを方法論に組み込み、レジストリのデジタル化を進める中で、デジタルファーストのアプローチを基盤とする新しいプラットフォームが次々と誕生しています。ここでは、そのようなプラットフォームの一つである「Isometric」をご紹介します。
IsometricはデジタルファーストアプローチとCDRに焦点を当てて設立された
Isometricは、炭素市場における課題を解決することを目指して2022年に設立された炭素クレジットのスタンダードおよびレジストリです。同社は、科学的厳密性やデータの透明性を重視し、迅速な検証や利益相反の排除に取り組んでいます。Isometricの標準はデジタルMRVに特化しており、レジストリもデジタル化を優先したアプローチで運用されています。扱うのは二酸化炭素除去に関する「プロトコル」(方法論)のみで、直接空気回収やバイオオイルの地中貯留、強化岩石風化といった高い耐久性(1,000年以上)のプロトコルに主に焦点を当てています。また、クレジットごとに料金を徴収する従来のモデル1を採用せず、炭素除去購入契約に基づく定額料金のモデルを採用することで利益相反を回避しています。ロンドンとニューヨークに拠点を置くIsometricは、Lowercarbon CapitalやPluralといった企業から2,500万ドルの資金提供を受けています。