株式会社sustainacraftのニュースレターです。本記事はVCM Updates(ボランタリーカーボンマーケットのアップデート)のセクションB(海外の主要規制の動向編)です。お問い合わせはこちらまでお願いいたします。
本記事では、2025年7月から8月にかけて発表された主要な炭素関連政策の動向に関し、以下の項目に沿ってお伝えします。
パリ協定第6条2項(二国間協力)
パリ協定第6条4項(パリ協定クレジットメカニズム)
各国炭素関連政策
非国家主体のイニシアチブの動き
キーワード: 6条2項, JCM, 6条4項メカニズム, PACM, ICVCM, CCP, SBTi, Verra, CORSIA
はじめに
パリ協定6条2項に基づく二国間枠組みに関し、いくつか重要な動きがありました。JCMに関しては、ジャカルタにて「インドネシアにおけるJCMへのビジネス参画促進フォーラム及びビジネスマッチング」が開催され、弊社のメンバーも登壇しました。その他の二国間協力については、シンガポールとタイとの間で二国間実施協定の締結が発表された他、マラウイによる6条2項に基づく初期報告書の提出がありました。この初期報告書はITMOの承認と移転の前に提出が必要なもので、ホスト国による公式な意思表示とも捉えられますので、こうした動きは継続的に確認しておく必要があります。
また、6条4項に基づくパリ協定クレジットメカニズム(PACM)に関しても重要な進展がありました。まず、監督機関が、抑制された需要に関する基準を採択しました。これは前回のニュースレターで、方法論専門家パネルでこの基準を監督機関に提言することが決まったことを紹介していたものです。今後は、非永続性(リバーサル)に関する基準の策定も進めることになっており、9月上旬に開催予定の方法論専門家パネル第8回会合において、この基準が議論されることとなっています。
各国の炭素関連政策としては、マレーシア、トルコ、南アフリカ、リベリアといったホスト国各国における炭素政策の進展状況を紹介します。炭素市場の成熟に向けて、各国で着実に政策的基盤が整いつつあります。
最後に、非国家主体のイニシアチブの動きとして、ICVCMによるバイオ炭とIFM方法論を対象としたCCP認定、SBTiによるトレンド報告書の発表、VerraによるCORSIA適格クレジットの発行要件である「保険」に関する英保険大手Howdenとの提携(VerraのCORSIAラベルガイダンスとの適合性評価)を紹介します。
CORSIA適格クレジットは、この記事で紹介した通り、相当調整が行われなかった場合や、LoA(Letter of Authorization)が取り消された場合に備えて、補償メカニズムの導入が求められます。補償メカニズムとして、レジストリーによって差異はありますが、多くの場合保険契約が含まれており、Verraのガイダンスと適合性のある保険が本提携によって明確にされ、今後Verraのウェブサイトに掲載されるとのことです。
パリ協定第6条2項(JCMを含む二国間協力)
パリ協定第6条2項に基づく二国間協力は、各国のNDC(国が決定する貢献)達成に向けた国際的な炭素クレジット取引の枠組みであり、直近1ヶ月に見られた進展は以下の通りです。
インドネシアにおけるJCMへのビジネス参画促進に関するフォーラム及びビジネスマッチングの開催 (link)
2025年8月21日、ジャカルタにて「インドネシアにおけるJCMへのビジネス参画促進フォーラム及びビジネスマッチング」が開催され、弊社のメンバーも登壇しました。本フォーラムは、日本環境省およびインドネシア政府機関との共催により、JCMの実施状況や相互承認協定(MRA)、国内炭素クレジット制度(SPEI)など最新の動向を紹介するとともに、廃棄物発電、REDD+、高効率産業技術などさまざまな分野における技術・ソリューションのビジネスピッチや個別商談を通じた実案件形成を目的として開催されました。
シンガポールによるタイとの間での二国間実施協定締結 (link)
2025年8月19日、シンガポールは、タイとの間で6条2項に基づく二国間実施協定を締結しました。両国は、2022年10月にMoC (link) を締結しており、交渉が続いていましたが、今回の実施協定の締結で、具体的な案件組成に向けた準備が整ったことになります。タイは、基本的にはエネルギー案件が多い国であり、自然由来案件のポテンシャルは限られています。ただしAWDの理論ポテンシャル(水田面積)は大きく、JCMの自然由来案件の文脈では、AWD案件の組成が進むことが期待されます。
マラウイによる6条2項に基づく初期報告書の提出 (link)
2025年8月12日、マラウイは、パリ協定第6条2項の下で規定される初期報告書を提出しました。この文書は、「国際的に移転される緩和成果(Internationally Transferred Mitigation Outcomes: ITMOs)」の取引に参加するために必須の文書です。マラウイは、本報告書の中で、協力的アプローチへの参加に必要な法制度と体制を整えており、承認手続きやITMOの追跡・記録システムを備えていることを確認し、GSに登録された「Biomass Energy for Conservation Programme」(GS-11677)を最初の認可活動として指定しました。
2025年8月現在で、この初期報告書を提出しているホスト国は、ガーナ、バヌアツ、タイ、ガイアナ、スリナム、モンゴル、カンボジア、ジンバブエ、モルジブ、マラウイ(提出順)で、JCM国の中でも未提出の国は多くあります。ただし、この初期報告書はJCMクレジットの創出段階ではなく、ITMOとしての承認と移転を実施する前に提出が必要となるものですので、現段階で提出されていないからといって、必ずしも問題視する必要はありません。しかしながら、これはホスト国によるITMOの承認と移転に関する公式な意思表示ですので、この提出状況は継続的に確認しておく必要があります。
パリ協定第6条4項(パリ協定クレジットメカニズム:PACM)
監督機関による、抑制された需要に関する基準の採択 (link)
パリ協定第6.4条の監督機関は、新たに「抑制された需要(Suppressed Demand)」基準を採択しました(前回のニュースレターで、方法論専門家パネルでこの基準を監督機関会合に提言することが決まったことを紹介しました)。これは、貧困などにより基本的なニーズが満たされていない地域において、将来的な生活水準向上に伴う排出量増加を考慮した上で、クリーンエネルギーへのアクセス改善といった開発に貢献するプロジェクトもカーボンクレジットの対象とするものです。これにより、これまで評価が難しかった途上国での開発支援と両立する温暖化対策プロジェクトの促進が期待されます。監督機関は今後、非永続性(リバーサル)に関する基準の策定も進める方針です。
方法論専門家パネル第8回会合の開催 (link)
パリ協定クレジットメカニズムの専門家パネル(MEP)が、9月上旬にドイツのボンで会合を開き、炭素除去プロジェクトにおける「非永続性(リバーサル)」という大きな課題に対応するための新基準を議論します。